水銀は空からも降ってくる
水銀は神経毒性をもち、母体を通じた胎児や生育中の幼児への影響が大きい。なかでも水俣病の悲劇で知られるメチル水銀の毒性は強く、神経発達障害や認知能力低下、心血管疾患などの増加を促しかねない。
米国国民健康栄養調査によれば、米国内の胎児の7.8~15%が過剰な水銀にさらされていたという報告もある。
一方、北米近海では1990年から2007年までの排出量調査で水銀が年間2.8%低下、北大西洋の海水でも同期間に年間4.3%低下。後者の上空大気における水銀量も2001年から2009年までに20%も低下している事実が判明していた。
Fisher氏らの試みは、こうした低下の影響を評価するために実施されたわけだが、上記の期間中に捕獲された対象魚群の水銀濃度も平均19%低下していたそうだ。ただし、その研究成果は、調査地域の水銀排出量の変化と対象魚における水銀濃度の直接的な因果関係を証明したものではない。
先程の北大西洋の低下傾向とは対照的に、アジア海域からの恵みを食する日本人にとって、先の大気汚染で水銀問題は深刻度を増している。
以前に米国・ハワイ大学とミシガン大学の研究者らが専門誌に寄稿した論文でも、北太平洋に深海棲息する魚群の水銀濃度上昇が明らかにされ、その主因が中国やインドの石炭火力発電所から排出される水銀の関与が取りざたされた。
とりわけ、中国から偏西風に乘って飛来してくる水銀による、日本の内陸水域の魚類に及ぼす影響は侮れない。特に妊婦の方々(予備軍も含む)は、くれぐれも冒頭紹介した食事の推奨事項を心がけてもらいたい。
(文=編集部)