日本でも意外と起こり得るホームレス生活
物質主義から解放され、屋根がなくても雨風、寒さをしのぎそれなりに快適に生きる。だが、マーク自身は、華やかで自由で気ままに見える生き方に決して満足しているわけではない。
家庭を持つことをあきらめる一方で、人生のパートナーと巡り会いたいという願望も抱いている。年老いた田舎の母がひとりで暮らす家に戻れば、50歳を過ぎて住む家もない自分に劣等感を抱くこともある。
映画のなかでマークが、「どうしてこうなってしまったんだろう?」と自分に問いかける。もう若くはない年齢を考えれば、老後にも不安を抱いて当然だ。
ホームレス生活が、思っている以上に我々の身近であり、我々が<普通の生活>と呼んでいるものとほとんど見分けがつかないものだとしたら? 『ホームレス ニューヨークと寝た男』は、現代の姿をありのままに映し出すことで、家やすべてを失うことが、意外と身近に起こり得るという疑問を投げかけている。
日本人にとって他人事ではないマークの葛藤
翻って、日本はどうだろうか。いわゆる路上や野宿の生活者ばかりがホームレスではない。ネットカフェなど夜間営業店舗を渡り歩く人など、ホームレスの形態は多様化している。住まいのない人を囲い込む「貧困ビジネス」が社会問題となって久しい。
アメリカで起こったことは、時を遅くして日本でも起きることが多い。現在のアメリカ社会は、今後の日本社会かもしれないのだ。
非正規雇用者の割合が4割を占める日本では、経済的に安定した堅実な生活を選ぶことが難しくなりつつある。少子化の理由のひとつにも挙げられる、経済的な理由のため結婚したくてもできないというケースも依然として増えている。
また、老後の十分な蓄えがなく、60歳を過ぎてもパートで働き、生活費を稼がなければならない老年のワーキングプアも問題視されている。年金や貯蓄が少なく、病気、事故、熟年離婚などを理由にやむを得なく貧困生活を強いられているいわゆる<下流老人>だ。
こうした社会問題を抱える日本人にとって、マークの葛藤は決して他人事ではない。
(文=編集部)
『ホームレス ニューヨークと寝た男』
2014年/オーストリア、アメリカ/英語/ドキュメンタリー/83分
原題:HOMME LESS
監督:トーマス・ヴィルテンゾーン
出演:マーク・レイ
音楽:カイル・イーストウッド/マット・マクガイア
配給・宣伝:ミモザフィルムズ 宣伝協力:プレイタイム/サニー映画宣伝事務所
後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム 協力:BLUE NOTE TOKYO
公式HP:www.homme-less.jp
© 2014 Schatzi Productions/Filmhaus Films. All rights reserved www. homme-less.jp G(映倫) NOT FOR SALE
2017年1月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー。