母から子へ……。突然変異による常染色体劣性の母系遺伝する難病
リー症候群は、障害の起きる部位によって、亜急性壊死性脳症、ミトコンドリア脳筋症(MELAS、MERRF)、ミトコンドリアミオパチー(慢性進行性外眼筋麻痺)とも呼ばれる。1980年代から脚光を浴びるようになったmtDNAの突然変異だ。
リー症候群は、嫌気的エネルギー産生が異常に酷使されるので、代謝産物の乳酸やピルビン酸が蓄積されたり、糖尿病の誘因になるリスクがある。遺伝性が明確でない孤発性の発症も少なくない。
mtDNAは母親の卵細胞から受け継がれるので、点突然変異(一塩基が置き換わった変異)による常染色体劣性の母系遺伝になる。乳児期に多発するが、20歳代の発症もあり、男性の発症率が高い。5000人の出生当たり1人の発症率とされる。
頭痛、嘔吐の初期症状の後、眼瞼下垂(眼が開きにくい)、外眼筋麻痺(眼球の運動障害)、網膜色素変性(網膜の異常や視力低下)、心伝導ブロック(心房から心室への刺激伝導の衰退・遅延)のほか、筋力低下、てんかん、呼吸障害、知的退行、難聴、痙攣、糖尿病、小脳症状など、さまざまな症状を合併する。
根治法のない難病のため、治療は対症療法または原因療法になる。糖尿病を合併した場合は、血糖降下剤やインシュリンの投与、てんかんを合併した場合は、抗てんかん剤の投与が行われる。心伝導障害に対するペースメーカー移植や難聴に対する補聴器の使用もある。原因療法としては、コエンザイムQ10、水溶性ビタミン類(ナイアシン、B1、B2、リポ酸など)、アルギニンの投与が有効とされる。
ミトコンドリアに関する研究では、10名以上がノーベル賞を授賞
最近、リー症候群は、がん転移やパーキンソン病の発症にも関わることも分かってきた。ミトコンドリアに関する研究では、10名以上のノーベル賞受賞者が出ていることから、発症の解明は日々進んでいる。
顕微鏡のミトコンドリアに魅入られたカール・ベンダ、リー症候群を発見したアーチボルド・デニス・リー、mtDNAの存在を世界に示したマーギット・ナス。彼らの献身と貢献がリー症候群の克服の道筋を照らし出しているのだ。
30年以上にわたってミトコンドリアと健康の関係を探求しているミトコンドリア研究の第一人者がいる。日本医科大学の太田成男教授(日本ミトコンドリア学会理事)だ。
太田教授によると、ミトコンドリアが不足した状態が病気なので、ミトコンドリアを増やせば元気になると説明する。
たとえば、身体に寒さを感じさせる、強めの適度な運動でエネルギーを消費する、カロリー制限をする、週に1回程度、1食を抜くなどを習慣化すれば、ミトコンドリアは確実に増えるという。
冬こそ、エネルギーの源、ミトコンドリアを鍛えるベストシーズンかもしれない。
(文=佐藤博)
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。