米の品種は主食用だけで約270も!(shutterstock.com)
「熟れて垂れて稲は刈られるばかり 山頭火」
炎暑の夏がようやく南の海に帰った。秋涼の風が稲穂を揺らしている。中稲(なかて)の刈り入れだ。新米が食欲をそそる至福の季節が来たのだ。
コメの代表ブランドと言えば、コシヒカリ、ひとめぼれ、あきたこまち、ヒノヒカリなどだが、主食用は約270品種、もち米は約70品種、酒米は約100品種もある(農林水産省「平成28年産水稲もみ及び水稲うるち玄米の産地品種銘柄一覧」)。
毎秋、美味しい新米にありつけるのは、コメの品種改良の恩恵だ。大自然から授かる大いなる実りは、生産農家、農協、大学、研究機関、NPO、種苗研究者、行政などのたゆみない連携・協力と技術革新が培った成果に他ならない。
このようなコメの品種改良の基礎技術として重用されてきたのが、コメのDNA品種鑑定の技術だ。
なぜコメのDNA品種鑑定が急務になったのか?
第二次世界大戦の敗戦とともに、日本社会の復興・再建が始まる。だが、終戦直後は、農地の荒廃、流通システムの不整備などの社会インフラが損なわれていたことから、食糧の供給不足、模造食品や粗悪食品の横行、健康被害の頻発、栄養不良による発病など、さまざまなリスクや矛盾が浮上したので、経済は大混乱に陥った。
このような経済状況の悪化・低迷を立て直しつつ、農林産品の品質改善と規格化、品質表示の適正化、取引の公正化、生産・消費の合理化をめざして、1950(昭和25)年に発足したのが、JAS法に基づくJAS(日本農林規格)制度だ。規格に適合した食品はJASマークの表示が義務づけられた。
その後も、食品の多様化、消費者の品質や安全性への強いニーズ、健康意識の高まりに伴い、JAS法とJAS規格は改正を重ねる。平成11年からは、生鮮食品の原産地、加工食品の原材料、遺伝子組換え食品などの表示が義務づけられ、平成21年には食品の産地偽装への罰則規定も加えられた。
しかし、コメの品種や生産地などの不正表示、異品種の混入、不正販売などのトラブルが後を絶たない。消費者の信頼性が揺らいだため、より厳密なコメの品質表示の確保が急務になった。さらに、平成22年にコメの品種情報管理を厳しく求める米トレーサビリティ法が追風になったことも否めない。
その結果、生産農家のブランドイメージや価格の安定化を図りつつ、育成農家の品種育成や育成権の保護を維持するためには、科学的な混入検査技術、高度な品種判別技術、精確な品種鑑定技術を求める機運が日に日に高まってきた。
このような社会的な状況から援用されてきたのが、コメのDNA品種鑑定だ。