日本の児童虐待8万8931件、24年連続で最多を更新中!
このような悲痛な児童虐待(Child maltreatment)は、決して対岸の火事ではない。国内の現状を探ってみよう。
厚生労働省の調査(2014年)によれば、全国2072カ所の児童相談所が対応した児童虐待の件数は、年間8万8931件(前年比1万5129件の増加)。24年連続で最多を更新した。都道府県別では大阪1万3738件、神奈川1万190件、東京7814件、埼玉6893件、千葉5959件と続く。
2000年に制定された「児童虐待防止法」第2条は、18歳未満の子どもを児童とし、保護者が行う児童虐待を次のように定義する。
「身体に暴行を加える身体的虐待/児童にわいせつ行為を行ったり、わいせつ行為をさせる性的虐待/心身の正常な発達を妨げる減食・長時間にわたって放置する育児放棄(ネグレクト)/著しい暴言・拒絶的対応・心理的外傷を与える心理的虐待。」
2004年の法改正は、確証がなくても虐待が疑われる場合なら、児童相談所などへの通報っを義務づけた。2008年の法改正では、立ち入り調査に親の同意が得られない場合でも、裁判所が許可すれば、児童相談所は強制的に立ち入りができるようになった。
虐待する親への措置は、親権を無期限に剥奪する親権喪失に加え、2012年からは一時的な親権停止も可能になった。2014年に児童相談所の所長が行った家庭裁判所への親権停止の審判申し立て23件のうち、17件の親権停止が認められている。
望まない妊娠、薬物依存、失業、経済不況、片親は児童虐待の温床なのか?
児童虐待の原因は何か?なぜ根絶できないのか?
心理学的な観点から診ると、児童虐待は望まない妊娠に起因するとする仮説がある。望まない妊娠は、意識的な妊娠と比べると、夫婦間に過度の不信感や過剰なストレスが強まるため、妊娠中の妻が夫から身体的虐待を受けるリスクが高まる。その帰結として、妻の精神衛生、母子関係の質、QOL(生活の質)が悪化することから、望まない妊娠で生まれた子どもは、虐待を受けたり、育児放棄(ネグレクト)されやすくなる。もちろん妻を虐待する夫は、子どもにも身体的な虐待を加える傾向が強まる。
児童虐待を招く重要要因に、アルコール、コカイン、ヘロインなどの薬物依存がある。米国の研究では、薬物依存の患者は、子どもを虐待する割合が高く、裁判所が命じたサービスや治療から脱落しやすい。
失業と経済的困窮も児童虐待の誘因になる。米国のCBSニュースは、経済不況になると、育児経験のない不慣れな父が世話をして子どもにケガを負わせたり、虐待する事件が増加したと報道している。
1988年の子どもの殺害に関する米国の研究は、義理の子どもが虐待を受けるリスクが高くなるシンデレラ現象を解明。義理の親、同居人、生物学的な親のボーイフレンドやガールフレンドなどの非生物学的な親が子どもを殺害するリスクは、生物学的な親に比べておよそ100倍も高いと報告している。
また、米国の福祉統計によると、虐待を受ける非虐待率(1000人中)は、片親家庭の子ども(27.3人)は、両親のいる家庭の子ども(15.5人)の約2倍であることから、片親に育てられた子どもは虐待を受けやすい。
さらに米国の高校生1000人を対象とした調査でも、虐待を受ける非虐待率は、実父母のいる家庭の子ども3.2%、それ以外の形態の家庭の子ども18.6%だった。
厚生労働省の最新データによると、2013年に虐待死した子どもは90人。ほぼ4日に1人の高頻度だ。半数近くは生まれて間もない0歳児。無理心中は3分の1。加害者は実母が圧倒的に多い。
望まない妊娠、薬物依存、失業、経済不況、片親などは児童虐待の温床になる。このような実証的な研究やリサーチの成果は大きいが、児童虐待が毎日、どこかで起きている事実は変わらない。
虐待を受けた児童は、単なる暴力行為の被害者や人権侵害の被害者に留まらない。成長とともに、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、うつ病、不安障害、パニック障害をはじめ、恐怖症、強迫性障害、解離性障害、人格障害、摂食障害、性的機能障害など、様々な精神疾患から逃れられない。
衝動的な自己破壊的行動や性的行動に走ったり、アルコールや薬物の乱用に陥ったりする……。悲惨な末路だけが残される児童虐待。なぜ根絶できないのか?
(文=編集部)