全員が対象、選別にかかるコストを削減
若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」の代表の今野晴貴氏も、著書『生活保護─知られざる恐怖の現場』(ちくま新書)で、こう述べる。
「保護の対象者の絞り込みにかける費用、そして、保護開始後の監視にかける費用は、貧困の防止と自立の促進という制度本来の趣旨からすると、すべて『無駄』である。」
「対象を選別しようとするから、こうした『選別の費用』が生じるのだ。だから、もっとも低コストの福祉制度とは、一律の明快な基準で、誰も差別せずに福祉を給付することなのである」
行政と利用者に分かりやすいシンプルさ
ベーシックインカム世界ネットワーク理事の山森亮氏の著書『ベーシック・インカム入門』(光文社新書)によれば、アイルランド政府が2002年に出した「ベーシック・インカム白書」には、その利点について次のように書かれている。
・現行制度ほど複雑ではなく単純性が高い。行政にとっても利用者にとっても分かりやすい。資力調査や社会保険記録の管理といった、現行の行政手続きの多くはいらなくなる。
・自動的に支払われるので、給付から漏れるという問題や受給に当たって恥辱感(スティグマ)を感じるという問題がなくなる。ベーシック・インカム給付のために必要な増税は、ベーシック・インカムという形で市民に直接戻される。
どうだろか? シンプルさと公平性がベーシック・インカム構想の大きなポイントだということが分かる。
もともと生活保護制度自体も、国民の最低限度の生活水準を国家が保証するナショナル・ミニマムという考え方が基本になっている。そのコンセプトを突き詰めていけば、このベーシック・インカムに行き着くはずだ。
生活保護をはじめ、現状のセーフティネットの問題が山積する今、社会のあるべき姿を考える上でのひとつの基準として、ベーシック・インカムが議論されてもいいのではないだろうか。
(文=編集部)