中村祐輔のシカゴ便り2

日本の医薬品貿易赤字額は年間で2.46兆円!乏しすぎる医薬品開発戦略

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年々増加する日本の医薬品の貿易赤字

  1月というのに、外は雨が降っている。米国東海岸では記録的な大雪となり、日本では沖縄でも雪が降ったにもかかわらず、雪ではなく、雨だ。昨年、一昨年の冬では考えられないような異常気象だ。

 しかし、日本の医薬品貿易赤字は、予想通りの数値だった。

 財務省から、2015年度の貿易統計の速報値が公表された。日本全体の貿易赤字額は2014年の約12.8兆円から、2015年は2.8兆円へと改善している。もちろん望ましい傾向だ。それでは医薬品の貿易赤字額はどうなったのか?

 なんと、前年度の1.86兆円の赤字から、2.46兆円の赤字と大幅に拡大している。国全体の貿易赤字と比較すると、医薬品の赤字額は87%に相当する額だ。医薬品輸出額は1100億円程度増加して健闘しているのだが、輸入額が7000億円増えている。

 ボクシングなら、1発打ち返したら、6-7発打ち返され、ボコボコにされているようなものだ。

乏しすぎる日本の医薬品開発の戦略

 赤字額は2000年には2205億円だったが、その後、15年連続で増加し、2015年には10倍以上拡大したことになる。本当にこのままでいいのか! 1990年代の赤字額は10年間すべて2000億円台だったので、いかにこの分野での日本の競争力が損なわれているのかが一目瞭然だ。

 日本医療健康開発機構1)なるものを発足させたが、この著しい競争力の劣化にどのように対応しようとしているのか、ほとんど見えてこない。研究で求められる戦略と薬剤開発に求められる戦略とは大きく異なるのだが、すべて同じ物差しで計ろうとしているのではないだろうか?

 大学研究者の論文を書くためのロジックとは、全く異なるロジックを組み立てて推進しなければ、この医薬品貿易赤字は、さらに拡大することはあっても、縮小できる可能性は少ない。オンコセラピー・サイエンス社2)がもっと頑張るしかない。

 ここまで来ると、日本は新規薬剤など開発せず、ジェネリック医薬品で医療をまかなえばいいという声もあがってきそうだ。もちろん、欧米では治療薬が手に入り、日本では手が届かない、これではG7を開催する国だと誇りに思えるはずもない。

 しかし、医薬品開発を進めるには、日本の戦略は乏しく、投入する資源も限られている。まるで、昭和18年以降の太平洋戦争の様相だ。このままでは、頑張っている人たちの心の糸も切れてしまうのではと心配だ。

 自国の国民を治療するための医薬品をここまで海外に依存していいのか!医薬品の開発戦争は、人の命を救うための闘いだ。この闘いに参加せずして、日本人の誇りが保てるのか! 日本国としての矜持の問題だ。ちっぽけな面子や学閥など捨てて、若者たちよ、声をあげよ!。

※編集部注
1)日本医療健康開発機構
日本の医療研究の司令塔となるべく2015年4月1日に発足した国立研究開発法人。文部科学、厚生労働、経済産業の研究費を集約、各研究者の連携を強化しながら、新薬や医療機器の開発を目指す。

2)オンコセラピー・サイエンス社
2001年4月に創設された大学発ベンチャー。東京大学医科学研究所と共同研究を行っており、主にがん治療のための分子標的治療薬・抗体医薬・ワクチンを研究開発し、すでに複数の治験を行っている

※『中村祐輔のシカゴ便り』(http://yusukenakamura.hatenablog.com/)2016/0126 より転載

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長、2012年4月〜2018年6月、シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長を経て、2016年10月20より現職。2018年4月 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)プログラムディレクターも務める。

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