シリーズ「傑物たちの生と死の真実」第11回

最晩年の江戸川乱歩は「パーキンソン病」と闘いながら口述筆記で執筆

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 日本中が熱狂した東京オリンピックの翌年、1965年(昭和40年)7月28日、くも膜下出血のため絶息、享年70。蝉しぐれを背に、8月1日、推理作家協会葬がとり行われた。

 乱歩の死因となったくも膜下出血は、脳を覆う3層の髄膜(硬膜、くも膜、軟膜)のうち、2層目のくも膜と3層目の間のクモ膜下腔にある脳脊髄液中に出血する急性疾患だ。出血は数秒だが、血液は急速にクモ膜下腔全体に浸透するため、頭蓋内圧亢進症状、髄膜刺激症状、一過性の脳虚血症状を招く。働き盛りの50歳から60歳で発症しやすく、再発しやすい。脳卒中の8%、突然死の6.6%を占める。

 乱歩の死因を詳細に分析した資料はない。ただ、くも膜下出血は、主として動脈の一部が膨らみ、動脈の血管壁が脆くなる脳動脈瘤の破裂によって引き起こされる。乱歩の持病とされる高血圧、動脈硬化が致命的なリスクファクターになった可能性はあるかもしれない。また、パーキンソン病が何らかの誘因になった可能性も否定できない。

 乱歩は、サイン会で色紙にサインする時、「現世(うつしよ)は夢、夜の夢こそまこと」、「昼は夢、 夜ぞ現(うつつ)」としたためた。夢か現か、現か夢か。乱歩は、おどろおどろしい怪奇・狂気・神秘の迷宮で、今もまどろんでいるのだろうか?

 シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、金田一耕助など、愛好される名探偵は多い。だが、明智小五郎と怪人二十面相の対決の面白さ、推理の巧みさは、大正、昭和、平成と時代が移っても、色褪せない。乱歩は、読者に警告する。

 「犯罪と云う怪物を相手にする時は自らが怪物と化さぬよう、気をつけねばならない。闇を覗こうとする時、闇もまた君を見ていると云う事を心に留めておきたまえ」


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。


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