DNA鑑定秘話 第11回

DNA鑑定秘話〜10億人に1人という特異なDNAを持ったシングルマザーの災難

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自分が産んだ子どもなのにDNAが一致しない!?shutterstock.com

 太平洋の波が洗うアメリカ西海岸。その最北部にワシントン州がある。北はカナダのブリティッシュコロンビア州、南はオレゴン州、東はアイダホ州に接する。州名は初代アメリカ大統領ジョージ・ワシントンにちなむ。カリフォルニア州、オレゴン州と肩を並べる、大らかでリベラルな気風。マイクロソフトやシアトル・マリナーズの本拠地、スターバックスの発祥地としても知られている。

 地政学的にも政治的にも精神的にも、自由闊達な空気があふれるワシントン州に暮らすリディア・フェアチャイルドは26歳。2002年、ごく普通のシングルマザーだった彼女は、突如、まったく想像もつかない意外な事実を突きつけられる。

 4歳の息子ジェイムズと3歳の娘ジェイムズビレイと暮らすリディアは、第3子を妊娠したものの、感情の行き違いからパートナーとやむなく別れることとなった。リディアは「女手ひとつで3人を育てるのは苦しい」と社会福祉局に駆け込み、生活保護を申請した。

 ワシントン州では、未婚カップルやシングルマザーが生活保護を受けるときは、家族全員がDNA鑑定を行い、親子関係を証明しなければならない。そのため、母子3人と父ジェイミー・タウンゼントがDNA鑑定を受ける。その2週間後、社会福祉局から驚くべき連絡が来た。

 父と子どものDNAは一致したものの、リディアと子どものDNAが一致しない。激しいショックを受けたリディアは、「鑑定ミスでは?」と疑い、再検査を申請。だが、DNAは再び不一致。社会福祉局は、リディアが生活保護を受けるために他人の子どもを申請したと推察。実母でない鑑定を根拠に、子どもたちを施設に引き取ると通達した。

 リディアは、公的扶助の不正取得疑惑の疑いがかかり、法廷で査問委員会の質問を受ける。両親や夫、リディアが出産した病院の医師も証言するが、DNA鑑定の結果は覆らない。査問委員会は、リディアを詐欺罪で告訴。困り果てたリディアは弁護士を探したが、なかなか見つからなかった。

なぜか出産したばかりの子どもともDNAが不一致!?

 ようやく1人の弁護士がリディアに手を差しのべる。アラン・ティンデル弁護士は、DNA鑑定で親子関係が否定された過去の事例を探そうと東奔西走する。やがて出産予定日が近づく。「出産現場を見せれば、親子関係をきっと信じてもらえるはず」。リディアは、アラン弁護士、検察官、福祉局員を出産に立ち会わせ、無事出産。すぐに赤ん坊のDNA鑑定に入った。

 しかし、DNAはまたもや不一致!? リディアは打ちのめされる。「赤ん坊を失いたくない!」、その直後、アラン弁護士が受けた1本の電話がリディアの命運を分ける。アラン弁護士は友人の医師から、雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・メディスン」の記事を教えられた。

 雑誌の記事によれば、1998年にボストンで腎臓移植を受けたカレン・キーガンがDNA鑑定を行うと、息子のDNAと一致しなかったという。アラン弁護士は、カレンのカルテやDNA鑑定の結果を詳細に調査。限られた体内の部分のDNA鑑定では一致しないケースがある事実が分かったため、リディアの全身の50か所からDNAを慎重に採取し、DNA鑑定が丹念に行われた。