噛めない日本人が増えている!? 重病の原因にもなる「咀嚼」の大切さを今村美穂医師に聞く

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――咀嚼不足が歯並びを悪化させるメカニズムとは、どのようなものなのでしょうか?
今村:幼い時に充分に咀嚼しないと、アゴの発達が不充分になります。そのために歯並びが悪くなってしまうんですね。

――歯並びが悪いと、どんな弊害がありますか?
今村:よい歯並びのメリットを先に理解して頂いたほうが分かりやすいかもしれません。きちんと並んだ歯で充分に咀嚼すると、口の中に唾液がたくさん出ます。唾液に含まれる免疫物質は口腔内の細菌を減少させ、虫歯や歯周病のリスクを低下させます。他に唾液には発ガン作用を抑制する物質が確認されているほか、咀嚼は脳の働きを活性化することも知られています。つまり、よく噛むほどボケ防止になるわけですね。働き盛りの人にはストレス発散の効果が興味を持ってもらえるかもしれません。堅い食べ物をじっくり咀嚼すると緊張がほぐれ、ストレスを解消させるという報告もあるんです。

――咀嚼不足は、以上のメリットの真逆だということですね。
今村:咀嚼不足が歯並びを悪くすると、噛む時の圧力や接触点が減少し、さらに咀嚼が難しくなるという悪循環に陥ります。あまり噛まないまま飲み込んでしまうと、唾液が充分に出ないため口腔の自浄作用が低下します。咀嚼不足は食べかすも増やしますから、プラーク(歯垢)の停滞率は上がります。プラーク1㎎には10億個の細菌が存在するとされますが、虫歯や歯周病の原因となるばかりでなく、糖尿病や心筋梗塞を引き起こすこともあるんです。

――糖尿病や心筋梗塞ですか!? 口の中とは関係ない病気ですけど?
今村:プラーク中の歯周病菌が歯肉の中に入り、毛細血管から大きな血管に移れば心臓に達して全身を駆け巡ります。歯周病菌に感染した血液は、血栓ができやすくなり、動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高めてしまうんです。細菌性心内膜炎という病気があるのですが、「細菌」といっても大半は口腔内の細菌が原因です。また歯周病は血糖値を下げるインスリンの働きを抑制するため、糖尿病を悪化させます。しかも糖尿病は歯周病菌に対する抵抗力を低下させてしまうので、歯周病も悪化してしまうんです。併発すると、悪循環が倍増して続いてしまうため、とんでもない健康悪化を招きます。

――歯磨きが大切なのは知っていましたが、同じぐらい咀嚼も大事なんですね。
今村:認知症に罹患し、なおかつチューブで栄養を摂っていた患者さんで、口の中にウジが湧いてしまったケースがありました。病院側もできる限りのケアをしていたんですが、やはり咀嚼を完全に行わないと、口腔の衛生が著しく低下してしまうということなんですね。

問題なのは子供と高齢者

――美味しい食べ物を、しっかりと噛んで食べるというのがQLO(生活の質)の基本だという気がします。
今村:在宅の老人介護で、周囲の方々が最も苦労されるのが、高齢者の「食べたいのに食べられない」「咀嚼と嚥下ができない」という悩みなんですね。どれほど日本人の平均寿命が伸びたとしても、食べたいものを食べられないのでは本末転倒です。特に今の歯科の世界では治療だけでなく予防に力を入れることが主流です。そのため、咀嚼の重要性を知ってもらおうと『子どもとシニアの噛む教室』を開催したんです。

――子供と高齢者が咀嚼の問題を抱えているのですか?
今村:近年は両親が働いているため、同居はしていないんだけど、近所に住んでいるシニア世代、つまり、おじいちゃんやおばあちゃんが孫の面倒を見るというケースが増えているそうなんですね。咀嚼できない世代同士が一緒に生活するため、例えば濃い味つけをどちらも好むようになってきているんです。

――高齢者は薄味を好みそうなイメージがあり、だから「おばあちゃん子」も薄味に慣れていそうな気がするのですが?
今村:咀嚼力が低下すると、食材の味が充分に感じ取れないんです。どんな食べ物でも咀嚼を繰り返すと、味覚が鋭敏になります。薄味でも充分に美味しいと感じられるようになるんですよ。

――となれば、20〜50代でも咀嚼は大切ということになりますね。何に気をつければいいのでしょうか?
今村:炭水化物より、おかずを食べるように心がけると咀嚼の回数は増えます。ラーメンに半チャーハンといった炭水化物中心の食事だと、あまり噛まなくても食べられてしまいますよね。野菜は生のほうが咀嚼回数は増えます。じっくり煮たニンジンも美味しいですが、やはり生でスティックにして食べたほうが噛むのは誰でも理解できるでしょう。あとリンゴもいいかもしれません。リンゴは別名「食事の歯磨き」と呼ばれます。「1日リンゴ1個で医者いらず」という格言がありますが、「リンゴで歯医者いらず」というわけです。噛めば噛むほど繊維質が口腔を綺麗にしてくれます。それに食後の歯磨きを加えれば、まずは合格点でしょう。
(文=編集部)


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今村美穂(いまむら・みほ)
M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長。1986年、日本歯科大学卒。1988年、日本大学歯学部矯正科修了。1996年、アメリカ・アイオワ州DMMCC大学卒。1998年、日本矯正歯科学会会員。2000年、AAOアメリカ矯正歯科学会国際会員メンバー登録。2003年、山梨県中巨摩郡昭和町に矯正歯科専門院を開院。2009年、同県甲府市上今井に移転開院し、現在に到る。

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