先日、ALSに関するひとつのリスクが報告された。防腐液のホルムアルデヒドを定期的に用いる葬儀屋の男性は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)発症のリスクが高い可能性がある――。
こんな報告が、『Journal of Neurology Neurosurgery & Psychiatry』(7月13日号)に掲載された。米ハーバード大学T・H・チャン公衆衛生学部(ボストン)のAndrea Roberts氏らの研究だ。
以前の動物研究では、ホルムアルデヒドとALS発症が関連づけられている。Roberts氏らは、成人約150万人から集めた米国の国勢調査のデータを用いて、ALSと職業的曝露の関連の可能性を探った。
米・国立がん研究所(NCI)が作成した基準を用いて、ホルムアルデヒドへの職業的曝露を推定し、死亡記録を用いてALSによる死亡を追跡。すると、曝露の可能性が高い男性がALSを発症する可能性はまったく曝露されない人の約3倍だった。曝露の可能性が高く、曝露量も多い職業の人がALSで死亡するリスクは、曝露されない人の4倍だった。
防腐剤や遺体の細菌・毒素でリスクが高まる可能性も
葬儀屋の仕事は、ホルムアルデヒドへの曝露が頻繁でその量も大きい。高濃度のホルムアルデヒドに曝露されていた男性約500例は、すべて葬儀屋だった。一方、曝露の可能性の高い女性ではALSリスク上昇はみられなかった。これは曝露の多い職業についている女性が少ないためにリスクを検出できなかった可能性があるという。
Roberts氏は、「この研究は、ホルムアルデヒド曝露とALSリスクの因果関係を示すものではない。葬儀屋では、他の防腐剤や遺体の細菌・毒素によってリスクが高まる可能性もある」としている。
特効薬も治療法もないALSは、病状が進行して自発呼吸ができなくなると、人工呼吸器が命綱だ。その状態でも生き続けられるが、家族への精神・肉体・経済的負担に思いを巡らせ、死を選択してしまう患者も少なくない。ALS発症を防ぐひとつの要因として、この研究の進展に期待したい。
(文=編集部)