イメージするだけで筋力アップ! Yayimages/PIXTA(ピクスタ)
現代のスポーツアスリートにとって、イメージトレーニングは欠かせないものとなっている。オリンピック選手が「表彰台で金メダルをもらう自分をイメージしてトレーニング」と、インタビューに応じている場面をよく見聞きする。
スポーツ界に限らず、思い込めばその通りになるという「引き寄せの法則」やナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」など、自己啓発やビジネスの分野でも、その効用が説かれることは多い。ただ、イメージしたものがどのような過程を経て実現するのかという、その仕組み自体はいまだにはっきりとは解明されていない。
イメージするだけで筋肉が変化する
2012年、「筋肉トレーニング中に、頭の中でイメージするだけで筋肉の強度が約13%増した」という研究報告があった。米オハイオ州のクリーブランド・クリニック財団の研究チームの報告によると、イメージトレーニングによって脳が活性化し、筋肉を効率よく使うことが可能となった結果、筋力がアップするという。
この報告では、イメージトレーニングと筋肉トレーニングを並行して行えば、脳が筋肉の破壊を認識して成長ホルモンを分泌し、その結果、筋断面積が増えて筋肉が太くなる可能性があることを示している。
さらに昨年末、それを裏付けるような研究結果が報告された。米オハイオ大学の筋骨格・神経学研究機関のブライアン・クラーク博士は、イメージすることが筋肉にどう影響するのかという実験を行った。
まず、29人の被験者を14人はイメージトレーニングをするグループ、残りの15人はイメージトレーニングをしないグループに分け、両群を利き手ではない方をギプス固定し、4週間後に全員の筋肉の様子を実験前と比較するというものだ。
イメトレ群は、「手を使って強く押す」「腕に強く力を込める」などのイメトレ(5秒)と休憩(5秒)を交互に数セット行い、それを週に5日間続けた。4週間の実験終了後の結果は驚くべきものだった。ギプス固定して何もしなかった15人の筋力は、実験前に比べ45%低下。それに対し、イメトレをした14人の筋力低下は23%にとどまったのだ。筋肉を使うことをイメージしただけで、筋力低下を約50%も防いだことになる。
研究チームは「大脳皮質レベルの神経学的メカニズムにおいて、イメージすることで皮質領域への定期的な刺激が筋力低下を防いだ可能性がある」と述べている。
心と体の密接な関連が次第に明らかに
精神が肉体に影響を及ぼしうるという研究は、決して今に始まったことではない。代替医療の分野ではよく知られたものだ。たとえばノーマン・カズンズやビル・モイヤーズは、著書の中で「精神や心理状態・感情面が病気やその治癒の過程に影響を与える」と語っている。イメージトレーニングによってがん細胞を縮小させる「サイモントン療法」は、日本でも知られているセラピーだ。
心と体が密接に関連しているという考えは、東洋医学的な思想に慣れた日本人にとってはなじみやすいものだが、従来の西洋医学の世界では、「非科学的」と懐疑的にとらえがちな傾向にあることも否めない。
そうした背景を考えると、今回のオハイオ大学チームの研究成果や、脳科学や神経生理学といった分野での興味深い研究報告の増加は、大きな意義があるといえる。
(文=編集部)