インフルエンザワクチンの予防効果は、通常はワクチン接種後、およそ2週間で現れる。ただし、予防効果が期待できる期間は、成人で接種後2週~5カ月程度、13歳未満では2回接種後の2週~5カ月程度だ。
ここ数年来、ウイルス型の流行予測が的中しているために、予防効果の精度は高まっている。たとえば、平成9年のA/H3N2、平成10年のAソ連型A/北京・262/95(H1N1)、A香港型A/シドニー/5/97(H3N2)、B/三重1/93などのワクチンは、流行したウイルス型と一致していた。
ただし、2012〜2013シーズンのインフルエンザ流行期に、全国の高齢者施設でワクチンを接種した高齢者が相次いで集団感染し、死亡者も出た。いくら予防効果の精度は高まっているとはいえ、侮ってはいけない。
厚生労働省によれば、この冬、2014〜2015シーズンのワクチンは、A(H1N1)亜型、A/H3N2亜型(A香港型)、B型の3種類を含むワクチンだ。国立感染症研究所によれば、今シーズンのワクチンは「抗原連続変異」の割合が小さいので、予防効果が期待できるという。
人間の生体はウイルスの抗原を見分け、抗原にあった抗体をつくり、感染を防ぎ、疾患の回復を早める免疫機構がある。この機構を活用したのがワクチンの予防接種だ。しかし、ウイルスの抗原が変異すると抗体は働かなくなり、変異した抗原に対抗できる抗体ができるまで感染は続く。
抗原連続変異とは、人間の免疫性を失わせ、免疫機構からの攻撃を回避するために、ウイルスが突然変異を起こして抗原性を変化させることだ。抗原連続変異の結果、特定のウイルスに対抗するワクチンの予防効果が低下する。したがって、抗原連続変異の割合が小さくなると、生体の免疫機構は働きやすくなり、ワクチンの予防効果は高まる。
今シーズンのワクチン予測は的中するか?
ワクチンの予防効果を知るための指標は3つある。
第1は、ワクチン株として選んだウイルス株(ワクチン原株)と、その原株を大量生産したウイルス株(ワクチン製造株)との抗原性の一致率。第2は、ワクチン製造株と、実際に流行したウイルス株(流行株)との抗原性の一致率。第3は、ワクチン接種後に得られる赤血球凝集抑制(HI)法による抗体価。
ウイルスは赤血球を凝集させる性質があるが、血液中に抗体が存在すると「抗原抗体反応」が起きて赤血球凝集能が抑制される。この性質を利用して血液中の抗ウイルスの抗体価を測定するのが、赤血球凝集抑制(HI)法だ。HI法によって得られた抗体価は、インフルエンザの既往歴の有無やワクチンの予防効果の確定的な指標になる。つまり、ワクチンとウイルスの抗原性がどれだけ一致しているかによって、ワクチンの予防効果が決まるのだ。
今シーズンは、2014年11月28日までに全国で分離・検出されたインフルエンザウイルス110例中99例がH3N2亜型株だったので、H3N2亜型(A香港型)が流行する可能性が高い。さらに、ワクチン原株とワクチン製造株との抗原性の変化が小さいH3N2亜型株を探索した結果、A/ニューヨーク/39/2012(H3N2)に決まった。しかも、2014年3月~8月に流行したウイルス株とワクチン原株の抗原性一致率は100%、ワクチン製造株と流行株の抗原性一致率も82%と高かった。
今シーズンの予測が的中し、パンデミックに陥らないことを祈るばかりだ。
(文=編集部)