壁の向こうは刑務所という名の特別養護老人ホーム? 白熊/PIXTA(ピクスタ)
高齢社会のまっただ中の日本。内閣府の「平成25年版高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者人口は3,079万人となり、総人口に占める高齢者の割合も24,1%に躍進。どうりで、アチラを見てもコチラを見ても高齢者ばかりなことに納得できる。
さまざまな分野で活躍したり、人生を謳歌したりする華々しい高齢者がいる一方で、人生が長くなり困惑・困窮する高齢者も少なくない。それを反映してか、さまざまな事件の加害者が高齢者であることもさほど珍しくなくなった。と同時に、警察に検挙され刑務所に入る受刑者の高齢化も進んでいる。全国の刑務所の65歳以上の受刑者は20年前の5倍、2,200人に上っている。
シルバー専用刑務所内工場も!?
ある刑務所の朝の風景だ。工場へ向かう若い受刑者の列の後に高齢者、さらにはシルバーカーを押す者、そして車いすの受刑者が続く。足を引きずる人や腰が曲がった人、杖をつく姿もある。
高齢受刑者限定の「高齢者工場」や「養護工場」を設ける刑務所もあり、そこでは体に負担がかからない簡単な作業を行う。全国から「空きがないか」という問い合わせがきているという。
高血圧や糖尿病、白内障、足腰の痛みなど、高齢受刑者の7割が病気にかかっていて特別な対応が必要だ。飲み込みやすい軟らかい食事の用意や、入浴の介助、おむつの取り替えなど、ヘルパーさながらの対応をするのは刑務官。まるで特別養護老人ホームの様相だ。
さらに、受刑者の病気が悪化し外部の医療機関に入院が必要となると、保安のため職員が常時3人付かなければならず、深刻な人手不足と負担増が問題になっている。また、服役中に認知症を発症、もしくは悪化する受刑者もいる。軽作業が行えなくなるばかりでなく、他の受刑者とトラブルになることもあるという。
刑務所のほうがラク、と思わせないために
高齢受刑者は、刑期を終えシャバに出ても、戻る家がない=家族がいないことが多い。さらに前科持ちのうえ高齢では、雇う職場はまずない。その結果、貧困、孤独によって再犯に走り、刑務所に舞い戻るケースは多い。
刑務所なら自由がない代わりに3度の食事と寝場所は約束されている。ホームレスになるか、生活保護を受給できても医療や介護サービスを十分に受けられないことも多い"厳しいシャバ"より、刑務所のほうが安泰かもしれない。
先ごろ、北海道旭川刑務所では、木製の机、ベッド、壁掛けテレビのある7,5平米の個室をお披露目した。刑期が長い受刑者が多く、高齢化が進んでいることなどが個室化の理由だ。
ネット上では「優遇し過ぎでは」「入りたい」「特養だったら順番待ちなのに」などの声が上がっているほどだ。旭川刑務所でなくても、身寄りがなく稼ぐあてのない要介護の高齢出所者が、「戻りたい」と思っても仕方がないかもしれない。
刑期が満期となって釈放されても、親族など受け入れ先がない人は約7,200人。うち高齢または障害を抱え自立が困難な人は1,000人いるという(平成18年法務省特別調査)。65歳以上の5年以内刑務所再入所率は70%(法務省特別調査)、再犯者の4分の3が2年以内に再犯に及んでいる(平成19年犯罪白書)。
こうしたデータから、出所後、すみやかに福祉と連携し福祉サービスにつなぐことが再犯防止のカギとのことで、大阪地検や京都地検は社会福祉士と連携・採用を始めている。縦割り行政がようやく横に広がりだしたようで成果に期待したいが、ケツに火がついてからではないと動かないのはさすがお役所仕事である。
(文=編集部)