私たちは"夜寝て朝起きる"という生活のリズムを自然に身につけている。このリズムを「サーカディアンリズム(Circadian Rhythm)」と呼ぶが、いまこのリズムが乱れている子どもたちが増加している。
ヒトのサーカディアンリズムは、本来、1周期24.8時間という報告があり、生活の中に太陽の光などがない環境で生活すると徐々にずれていくことがわかっている。
サーカディアンリズムをコントロールしているのは、脳の視床下部にある「視交叉上核」と「松果体」。つまり、私たちは毎朝、目が覚めて日光を浴びることで、脳の視交叉上核から松果体に信号を送り、このサーカディアンリズムをリセットしているのだ。
サーカディアンリズムは体温や血圧にも影響を与え、体温は昼から夕方にかけて上昇し、夜が更けるに従って下降、血圧は朝起きる前には上昇する。「朝になれば起きる」という体制をカラダの中で自然に作っているのである。
ヒトは睡眠によって肉体と脳を休め、機能回復を図っている。子どもに必要な成長ホルモンは、ノンレム睡眠状態(いわゆる「深い眠り」)になってからの約3時間で最も多く分泌され、この成長ホルモンの働きによってタンパク質などの代謝が促され、骨や筋肉が作られる。睡眠不足が短く、レム睡眠状態(いわゆる「浅い眠り」)では、成長ホルモンの分泌は滞る。まさに「寝る子は育つ」は本当なのだ。
ちなみに、日本の子どもたちの睡眠時間は「世界一短い」という統計データもある。
"登校拒否"ではなく"登校不能"
睡眠障害には「不足型」と「過眠型」、さらに、その混合型がある。乳児・幼児期から夜型生活が続くと睡眠障害をきたし、「朝になっても起きられない」というのが常態化してしまう。そして小学生や中学生になった頃には、それが原因で「学校に行けない」ということになってしまう。医療者は「学校に行けない」原因を探ろうとするが、なかなか生活習慣の踏み込んではくれない......。
これは、いわゆる"登校拒否"ではなく、"登校不能"という状態だ。友人関係など学校生活に問題があって「学校に行きたくない」のではなく、生活習慣による睡眠障害によって「学校に行けない」のだ。事実、夜になれば本人は「学校には行きたい」と言うが、朝になると起きられない。本人にも、登校拒否という意識はまったくない。
最近の研究では、幼児期や小学生の時期に一生懸命がんばる子が、こうした「昼夜逆転症候群」になるケースが少なくないという。少子化社会によって大人の中に1人だけで育つ子どもは、がんばることで大人に褒めてもらいたいと考える。
そして中学校に入ると、ハードな試験勉強や受験勉強、クラブ活動など、カラダが悲鳴を上げるほど疲労困憊し、そのキャパシティを超えてしまう。その結果、ある日、突然、朝起き上がることができなくなってしまうのだ。
大人でも、就寝前に脳を使えばますます目がさえて寝つけないことが少なくない。現代の子どもたちのように、眠りにつく直前までテレビやインターネット、ゲーム、スマホなどを見たり操作をしていれば、脳は興奮状態が続き、すぐに休息することができない。やはり、眠りにつく1時間前からは入眠の準備が大切なことを、子どもの頃から習慣にすべきだ。
さらにいえば、大人たちが夜更かしを続けていては、一緒に暮らす子どもも同じような生活リズムになりがち。「子は親を写す鏡」というが、親が率先して正しい生活習慣を実践しないかぎり、昼夜逆転症候群の子どもが減ることはない。
(文=編集部)