完全主義は捨て去って腰痛に臨む
現在、腰痛の治療方法は100種類以上あるといわれる。その大部分はエビデンス(科学的根拠)が希薄といわれる。レーザーでヘルニアを治療する経皮的レーザー椎間板減圧術などは高額かつ椎間板への悪影響が明らかになっています。サプリメントのコラーゲンやヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸なども、口から摂取したところでそのまま患部に作用することはないため効果は期待できない。
この認知行動療法が効き目を表すのは、腰痛の85%を占め、原因が特定できずかつ重篤ではない「非特異的腰痛」。残り15%の、はっきりと原因の分かっている、とくに急性の腰痛は相応の治療を施す必要がある。
原因が特定できない腰痛は、たいてい慢性化している。このためいろいろな療法が試され、なかなか治癒せず、エビデンスのない治療法に飛びつくか諦めているケースが多い。
認知行動療法に取り組む際、気をつけたいのは手術や薬物などで一気に痛みが取れるような療法ではないと認識しておくことである。つまり、「完治させて痛みをなくす」のではなく、「改善して痛みを軽くする」ことを目的とすべきなのだ。
完全主義的な考え方を捨てたところからスタートしなければならない。
治療の目的はこのQOLを向上させること
ストレスがどうして痛みを引き起こすのかは、まだ解明されていない部分が多い。しかし、脳内の神経伝達物質の分泌が不規則になって、きちんとした「痛み」を感じなくなるのは確かなようだ。
認知行動療法のために日記をつけることで、腰痛以外の症状も改善されることが多い。たとえば、やはりストレスが原因の胃痛や頭痛、めまいや円形脱毛症、さらには皮膚に表れる湿疹などの疾患も良くなったという例があるそうだ。
福島県立医科大学の紺野慎一教授(整形外科)は、こうした腰痛におけるリエゾン療法の第一人者で、「腰痛」関連の著書も多い。
これまで常識だと思ってきたことでも、とくに腰痛に関しては疑ってかかった方がいいこともある。たとえば、椎間板ヘルニアの90%は治療をしなくても自然に治るという。
その紺野教授は、痛みとは生活活動に必要な「防衛本能」と捉える。体温や脈拍や血圧などと同じバイタルサインであり、本来は組織の損傷などが治癒することで消失するものである。
しかし、慢性の腰痛などは数ヶ月から数年の間、痛みが続き、そのために患者のQOL(生活の質)が著しく低下してしまうのである。このQOLを向上させることこそが治療の目的なのだ。
認知行動療法は、薬物などは使わない療法だが、ストレスを原因とする腰痛の場合、不眠や身体機能の低下などからうつ症状を伴うことも少なくない。こうした場合には抗うつ薬や抗不安薬を併用することで、腰痛が改善することもあるという。
(文=編集部)