●怯まずに胸を張って支払い拒否
しかし、これらの条件に合致していても、差額ベッド料の支払いが義務であるかのような説明をして、同意書への署名を求めてくる場合がある。これは2つの理由が考えられる。まず、現場担当者が差額ベッド料の徴収に関するルールをしっかり理解していない場合。2つめは、病院経営のために上手く誘導する"確信犯"だ。
意外に思うかもしれないが、病院という"ビジネス"はそれほど儲からない。というのも、病院は、医師、看護師、検査技師、薬剤師さらに事務部門など、数多くの人材を雇用しなければ経営できない。人件費は膨大だが、定められた人員の配置基準などの規制もあって、人件費削減はままならない。加えて、医師などの技術料は前述のように公的な価格が決められているため、病院が市場原理や経営判断で設定することはできないのだ。そこで病院にとっては、価格決定の裁量のある差額ベッド料が収益の柱になりつつあるのだ。
では、病院側がさりげなく差額ベッド料の支払いが必要であると説明し、同意書へのサインを迫ってきたらどうするか? もしそこで、経済的な負担は重くないから、まあいいかと思う人は同意書にサインしてもいいだろう。
納得できない人が、まずやるべきことは、医師が医療上入院を必要だと判断していることの確認だ。「お医者さんは入院が必要だと言っていますか」と問えばいい。
医師が入院の必要性を説くならば、今度は患者本人(子供の場合はその家族)が、差額ベッド代のかかる病室への入院を希望しないことを伝える。"良心的"な病院ならば、ここで話はすむ。ただし、この場合は、一旦は個室などに入院できても、大部屋に空きベッドが出たら、そちらに移動しなければならないケースがあることは心得ておこう。
●病院側がごねた場合の奥の手
ちなみに、それでもなお、差額ベッド入院には同意書が必要だと迫られることがある。注意が必要なのは、前述の差額ベッド料が徴収できない3条件のいずれかを満たしている場合には、同意書そのものへのサインはいらない。同意書にサインしたら、後で揉め事のタネにもなる。
想定される最悪のケースは、病院側が一転して入院の必要性がないとして、そのまま患者を帰宅させようとする場合、あるいはあくまで差額ベッド料の支払いを主張して同意書への署名を迫るケースだ。前者の場合には、最初にも説明した、「医師が入院を必要だと判断した」事実を突きつければよい。
病院側がごねる場合、さらには後者の場合は、全国7ブロックに設置してある厚生労働省本庁やその地方支分局である厚生局、あるいは都道府県の医療課などに電話で連絡を取って確認をする意思があると伝えよう。
実際に連絡を取ってもよい。おそらく厚生労働省、厚生局、都道府県医療課では支払う必要がない旨を説明してくれるはず。後は病院の担当者に、そのことを電話確認したと告げればよい。連絡した官公庁の担当者の名前を控えておくと効果的だ。ここまでして引き下がらない病院は皆無だろう。
奥の手も一つ。スマートフォンの録音アプリなどを起動させて、医師が入院を必要だと判断したこと、患者あるいはその家族が差額ベッドを希望していないことを告げたやりとり、それでも同意書にサインを求める説明をした内容、を録音しておく。そうすれば、同意書にサインをした後でも、支払い拒否あるいは返還を求めるときの材料になる。
モンスターペイシェント、あるいはクレイマーと思われるようで嫌だという人がいるかもしれない。しかし、こうした支払い義務のない差額ベッド料を求めるのは、明らかな法令違反。胸を張って、怯む必要はない。
(文=編集部)