目の後ろの耳腺から毒液を分泌するオオヒキガエル
今年もすでに、毒キノコによる被害が報告されている。
スギやアカマツなど針葉樹の切り株や倒木に発生する扇状のスギヒラタケは、白いヒラヒラがおいしそうに見えるが、食べてはいけない。平成16年以前は、腎臓の機能に問題がある人以外は食べてもよいと紹介されていた。しかし、同年、このキノコを食べた60人が急性脳症を発症し、うち19人が死亡したことを受け、以降、農林水産省、厚生労働省などが食べないよう注意を呼びかけている。
ほかにも、触るだけで炎症を起こし、食べたら死ぬ恐れもあるカエンタケ、激しい下痢や嘔吐、悪寒などの症状が出て死亡することもあるニガクリタケなど、秋の山にはありがたい恵みの他に思わぬ落とし穴が潜んでいる。
さらには「地味な色のキノコは大丈夫」「縦に裂けるキノコは食べられる」「乾燥させれば平気」「ナスと一緒に料理したらいいんでしょ」などといった迷信がまかり通っていることも問題だ。素人判断で口に入れないようにしたい。
●フグの素人調理はNG
これから旬を迎えるフグも、昔は食べることが命がけだった。食べてから20分〜3時間くらい後にしびれが出て、マヒが唇から手足、全身へと広がっていく。ひどい場合は呼吸困難を起こして死亡してしまう。現代でも毎年30件くらいのフグ中毒が発生し、数名は亡くなっているのだ。
フグの種類によって毒の強さは違うが、一般的に卵巣や肝臓、皮に強力な毒があると言われている。そのため日本では、食用できるフグの種類や食べられる部位が、事細かに決められている。素人が調理することは、自らの命を縮めることと同じだ。
食卓によくのぼるジャガイモも、光が当たって緑色に変色した表面や芽が出てきた部分には、ステロイドアルカロイド配糖体が含まれているので、取り除いてから食べたほうがいい。
意外なところでは、アジサイの葉、スイセンの葉・鱗茎(りんけい)なども厚生労働省の「自然毒のリスクプロファイル」に名を連ねている。自然界には、さまざまな毒があふれている。
●オオヒキガエルの毒ががん細胞を殺す
小笠原諸島や石垣島、西表島などで見つかったオオヒキガエルは、もともとアメリカ南端から中央アメリカ全域、南アメリカ北部に生息する大型の毒ガエルだ。日本では特定外来生物に指定されており、このカエルを補食したイリオモテヤマネコに被害が及ぶのでは、と心配されている。というのも、耳腺からミルク状の強力な毒を分泌するこのオオヒキガエルが、これを餌にしたオーストラリア固有の淡水ワニを絶滅の危機に追いやっているというから穏やかではない。
オーストラリアでは害虫駆除のため1930年代に移入したというが、繁殖力が強いこと、そして天敵がいないことからオオヒキガエルは大繁栄し、この地の生態系を蝕んでいる。日本でも似たような話はいくらでもあるので、オーストラリアの安易な移入を笑うことはできない。
しかし、朗報がある。オーストラリア・クイーンズ大学の研究チームが、このオオヒキガエルの毒を前立腺がんの治療薬とする研究を進めているという。同大学のジン・ジン博士が博士号取得のための研究中に、この毒液が健康な細胞を傷つけることなく前立腺がんの細胞を殺すことを突き止めた。実用化にはまだまだ時間がかかりそうだが、実現すれば、害獣に指定されたオオヒキガエルの駆除と、日本でも毎年1万人以上の高齢男性が亡くなる原因の前立腺がんをやっつけるという、一石二鳥の治療薬が誕生するかもしれない。
(文=編集部)