責任回避に終始する習性に洗脳されている事務職員
トップの事務職員は前例主義に凝り固まっている。ボトムアップで対応すべき案件もいちいち本庁(県庁)の指示を仰ぐ習慣が身についており、臨機応変に対応する術を知らない。責任を取るという考えが全くないというか、責任回避に終始する習性に洗脳されている。すぐに予算のことを言い出すが、健康危機にまず予算という発想自体がナンセンスだ。
事務職員にとって、定年間際の出先機関の長は非常においしいポジションだろう。本庁(県庁)も長年働いてくれた恩賞人事で、最後の1、2年に事務職員を出先機関の長にする。そして、定年後は再び「県」に再任用の形で就職するため(もしくは「県」関連に再就職)、本庁(県庁)の言う事に逆らわず、大過なく定年を迎えなければならない。これが「県」ムラ社会である。
そのようなトップの下、臨機応変、ボトムアップの対応が必須の健康危機に対し、〇〇福祉事務所や××センターが上手く機能するとは思えない。忙しくなると本庁(県庁)に頼んで事務職員を派遣してもらう発想が関の山だ。専門職の集団である保健所に対し、専門職ではなく事務職員派遣でお茶を濁すのである。
次年度、専門職を十分に配置して保健所機能を強化することは毛頭計画にない。そのような専門職の重要性を理解できないというか、〇〇福祉事務所や××センターのトップの事務職にはそのような専門職を統括することは元々できないし、むしろ来てもらって充実されては立場がなくなるのである。なぜなら、このトップの事務職員は保健衛生畑にずっといた保健衛生のエキスパートではない、ついこのあいだまでは農林だったり、、、医療に至っては全くの素人同然、、、これでは、保健所機能を統括出来るはずがない。
このような体制では、見せかけだけ、掛け声だけの強化に終わるのが見えている。新型インフルエンザでのエビデンスがそれを物語っている。十中八九、新年度となっても、強化はされないだろう。「人事部局に掛け合ったが却下された」で終わるだろう。本庁(県庁)人事部局は健康危機管理には全く無縁の部署、保健衛生に最も遠い部署だから、保健所の人的強化を理解できるはずもないし、むしろ人減らしに熱意を燃やしている。
また、何処まで真剣にこの人事部局に掛け合う気持ちがあるかも疑わしい。精々本庁(県庁)の事務職員を出先(〇〇福祉事務所や××センター)との兼務という形にして短期間派遣要員としリストにあげて、一見頭数だけを増やした形にするのが精いっぱいだろう。
公衆衛生の重要性を理解する医師が働けない環境
このような県「ムラ」の論理で固められた職場、保健所長一人しかいない保健所に就職する公衆衛生に燃えた医師がいるだろうか。少し長く臨床をやっていると、学生時代あれほど面白くなかった公衆衛生の重要さに気が付き、公衆衛生をやってみたいと思う医師は少なくない。しかし、保健所長になって公衆衛生を実践したい医師がいないと叫ばれている。その根本の原因はこの県「ムラ」自身の論理にあることは意外と知られていない。
強固な保健衛生の組織を目指し、全国的な公衆衛生の機関自体を立て直す時期に来ている。今回のような感染症のパンデミックに、地方分権とか県「ムラ」の論理をゴリ押しするのは完全に限界であり、住民の方をしっかり向いた保健衛生/公衆衛生に軌道修正するべきである。国が指導しても県「ムラ」が変わらなければ、全国的な新しい組織の出番となるだろう。国の新しいトップはそこまで踏み込めるだろうか?是非踏み込んで歴史的な仕事をして欲しい、これは現場の保健所長からの心からのお願いである。
(文=某保健所長)
※MRIC by 医療ガバナンス学会発行 http://medg.jp 2021年10月5日より転載