目的(医療崩壊の回避か経済損失最小化か)があいまいではないか
安倍首相の医療崩壊に対する危機感の薄さは、上述の「最低70%」要請発言に示されているが、最も端的に示されているのが特措法担当大臣に経済再生担当大臣を任命していることだ。
「国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるように」、対策の強化を図るのが特措法の目的である。COVID-19による医療崩壊を起こさないことが主たる作戦目的であり、経済への影響を最小限に留めることは従である。
作戦立案本部(厚労省・クラスター対策班)と作戦決定本部(官邸)との仲介・調整役が特措法担当大臣だろう。特措法担当大臣が厚労大臣でないために、医療前線での戦況が、充分に官邸、安倍首相に伝わっていないのではないかと危惧する。
新型コロナ対応で支持率を低下させたのはトランプ大統領と安倍首相くらいではなかろうか。ともに経済再生を主目的と考え、医療崩壊の危機を従と見ているようだ。あるいは二兎を追っているのだろうか。
「南雲(中将)は二兎(ミッドウェー島攻略と米機動部隊撃滅)を追う作戦として行動を開始」したのであるが、「のちに問題になる航空機への“爆装取り換え問題”」を起こして、一兎をも得られなかった(島攻略と部隊撃滅では爆装が違うために失敗した)のである(池田清編・太平洋戦争研究会著『太平洋戦争全史』、河出文庫、2006, p.113)。
索敵(PCR検査)に失敗していないか
クルーズ船ダイアモンド・プリンセス号の乗客・乗員、およびチャーター機による武漢在住日本人帰国者に対する検疫は、発病者(有症状+PCR検査陽性)に対する隔離と、それ以外の者に対する潜伏期間と考えられる14日間の停留であった(無症状でPCR検査陽性者の対応については、筆者の情報不足のため不確かである)。
最終的に、クルーズ船の乗客・乗員、合計3,711人のPCR検査の結果、712人が陽性、そのうち331人、46%は無症状であったことが報告されている(厚労省Hp『新型コロナウイルス感染症について』)。
乗客・乗員や帰国者に対する検疫と異なり、空港での検疫は特定地域(当初は武漢、後には中国全土)からの入国者のうち、発熱(37.5度以上)の有症状者だけを対象とした。
クルーズ船でのPCR検査が進むにつれて、検査陽性(すなわち感染源になり得る者)でも、相当の割合で無症状であることが判明しただろう。しかし空港検疫の対象とした発熱者の条件を削除することは無かった。その結果、特定地域からの入国者でも、無症状(無熱)の者は空港検疫をくぐり抜けて入国したことになる。彼らが国内での感染源となったのだろう。
クルーズ船で行ったPCR検査の結果を、空港での索敵作戦に利用できなかったのだ。「戦訓としてただちに次の作戦に生かすことをしなかった」政府・厚労省の硬直性を示しているのだろう。