「裁量労働制」でトクをするのは誰なのか?(depositphotos.com)
3月1日、かねてより安倍晋三首相が導入を目指していた「働き方改革関連法案」における「裁量労働制」の対象拡大について、これを全面削除し、今国会での提出を断念することを表明した。
経緯を振り返れば、平昌(ピョンチャン)五輪での羽生結弦選手や小平奈緒選手らの活躍に日本が沸いていた2週間、国会では「裁量労働制」をめぐる論戦が進み、議論の元となったデータについて、野党から異論が続出する事態だった。
まさか国民の目がメダルラッシュに奪われている隙に、「裁量労働制」の対象拡大という「大企業にとって都合のいい法案」を通してしまおうという意図ではなかっただろう。
だが、政府によって進められようとしている「働き方改革」が、いったい誰のための改革なのか、見えにくい状況になっていたのは確かだ。
そもそも、その対象業務の拡大をめぐる審議が進められていた「裁量労働制」とは、「時間管理を社員個人の裁量に任せることで、勤務時間や出退勤時間も自由になる制度」だと謳われていた。
その際、労働時間は、あらかじめ月に働く時間を仮に定めておく「みなし時間制」が取り入れられる。そのため「実際に働く実労働時間」と「みなし時間」がかけ離れる可能性がある。
「裁量労働制」を導入できる業種は、研究開発や情報処理システムの設計・分析、取材・編集・デザイン、プロデューサーやディレクターなど。いずれもクリエイティブ色の強い、ホワイトカラーが中心だ。
従来でさえ不規則な勤務時間になりがちなこれらの業種の人たちが、残業代という歯止めがなくなることで、際限のない労働時間の中に投げ込まれてしまう危険性があった。
実際には長く働かされているケースが多数
実際、「裁量労働制」での労働問題の相談を請け負っている「裁量労働制ユニオン」の板倉昇平氏は、時間外労働が月100時間を超えながら、毎月の給料はまったく変わらず、「定額働かせ放題」の状況に陥っていたゲーム会社の社員の例などを「裁量労働制ユニオンのサイト」で紹介している。
この社員は、入社時は1日10時間8分のみなし労働時間で、ゲーム用ソフトウェアの創作の業務を行なうと説明されていた。しかし実際の業務は、商品企画やゲームの体験イベントの開催、ゲーム宣伝用のサイトやSNS運用など多岐にわたるものだった。
休憩はほとんどなく、しばしば徹夜や休日出勤を余儀なくされ、適応障害を発症したという。
「働く側の裁量を広げる」と言いながら、実際はいくら働かせても定額の給料に収められるという、企業にとって極めて都合のいいこの制度だ。