近藤誠氏「ワクチン副作用の恐怖」は真に妥当性のある意見なのか?~批評(3)

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「川崎病はワクチンが原因」説を示す妥当性の高いデータは存在しない

 近藤氏はワクチンの副作用による死亡には非常に神経質ですが(それは悪いことだとは思いませんが)感染症による死亡リスクについてはあまりにも無神経です。

 ただ、インフルエンザに抗菌薬は効かないとか、アスピリンを飲んでいるとインフルエンザ死亡リスクが高くなるといった近藤氏の指摘は本当です。ですから、近藤氏はデタラメばかり言っているわけではありません。

 繰り返しますが、これは「ひと」の問題ではなく「こと」の問題です。「近藤誠が言っているからデタラメだ」と断ずるのではなく、それぞれの主張の是非を、丁寧にひとつひとつ検証していくことが大事です。

 近藤誠氏は、川崎病はワクチンが原因であると主張し「すべてがワクチンの副作用だとは言いませんが、かなりの部分がワクチンの副作用です」と断定します。

 しかし、そのような説を示す妥当性の高いデータは存在しません。

 いや、川崎病は感染症の多い季節に発症しやすく、むしろ細菌感染やウイルス感染が引き金になっているのでは、とも考えられているのです。川崎病を発症した子供の兄弟が1週間以内にやはり川崎病を発症しやすいという日本のデータが、このことを示唆しています(J Infect Dis. 1988 ;158:1296-301)。感染症と川崎病との関連は(やや不思議なことですが)近藤氏自身も述べています(前掲書133頁)。

「三種混合ワクチンと自閉症との関係」は反ワクチン派医者のデータ捏造

 かつてMMRという、麻疹、風疹、おたふくの三種混合ワクチンと自閉症との関係が議論されたことがありましたが、現在ではこのような関係はないことが分かっています。それどころか、この「因果関係」を主張した論文は反ワクチン派に属する医者のデータ捏造でした。

 近藤氏は「〜恐怖」で、いまだにワクチン自閉症説に固執します。この点については拙著「ワクチンは怖くない」(光文社新書)で詳しく説明しましたし、近藤氏も説得力のある根拠を述べていないので、ここでは深くは取り上げません。

 ここでは欧州各国の大規模試験でMMRと自閉症の関係は否定されている、という一点のみを指摘しておきましょう(The Lancet. 1999 ;353:2026-9、JAMA. 2001;285:1183-5、N Engl J Med. 2002 ;347:1477-82)。

「誤差範囲」は臨床医学の「いろは」、医学生でも知っているべき常識

 ワクチン接種のあとに川崎病を発症した事例は報告されていますが、ワクチンと川崎病の関係を示した妥当性の高いデータは皆無です。だから近藤氏の「かなりの部分がワクチンの副作用です」という主張は根拠を欠く暴論なのです。

 なお、近藤氏は7万人以上が参加したロタウイルスワクチンの臨床試験で、プラセボ群に1人、ワクチン群に5人の川崎病が発生したから「5倍」に増えたと述べていますが(前掲書137頁)、これも統計的な有意差のない「誤差範囲」であり、近藤氏の主張は間違いです。

 数字を見た目のまま数えて比べてはならない。「誤差範囲」の可能性を無視してはならない。このへんは臨床医学の「いろは」であり、医学生でも知っているべき常識です。近藤氏が、それを知らないはずがないのですが。

 B型肝炎ワクチンの販売量と多発性硬化症の発症数を並べたグラフに至っては(前掲書155頁)、「チョコレートを食べるほどノーベル賞受賞者が増える」的な医学者なら絶対にやらないような間違いです。関係ないグラフの線を2つ並べて、もっともらしく見せようとしているだけの「子供だまし」です(詳しくは中室牧子、津川友介「チョコレートの消費量が増えるとノーベル賞受賞者が増える?『ダイヤモンド・オンライン』2017.4.14」を参照ください。

 両氏の「原因と結果の経済学」をお読みいただければ、近藤氏が主張する「因果関係」のほぼ全てが根拠を欠いたものであることがよく理解できます)。

 近藤氏が指摘する、2200万人が新型インフルエンザのワクチンを接種され、そのうち131人が翌年3月までに亡くなっているというデータも(前掲書162頁)、同様の理由でワクチンとの「因果関係」に落とし込むのは乱暴すぎます。

 このデータでは高齢者、特に80歳以上の方の死亡が特に多かったのですが、80代の方をたくさん追跡したら、そのうち一定数の方が冬の間にお亡くなりになるのは、むしろ自然なことではないでしょうか。

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