総合感冒薬の服用は用法・用量を厳守(shutterstock.com)
師走の忙(せわ)しさに急かされるように、風邪もインフルエンザも猛威を振るっている。症状が軽いなら水分と栄養に気をつけ、温かくして安静にする。辛いなら薬を飲むか、受診する――。それが快癒の王道だ。
先月は、漢方薬はどれを選んでいいか迷っている人のために「風邪やインフルエンザに効く『漢方薬』はコレ!」を掲載したが、昔から愛飲されている葛根湯(かっこんとう)は、寒気、発熱、頭痛があり、汗が出ない風邪やインフルエンザの初期に有効だ。
だが、風邪の引き始めに葛根湯は、本当に効くのだろうか? 葛根湯の効能と有用性を改めてチェックしてみよう。そもそも葛根湯とは、どんな漢方薬なのだろう?
7種類の生薬の絶妙なコラボで作られる「葛根湯」の薬理効果
中国医学にルーツを発する漢方薬は、自然の草や木から採取した生薬を組み合わせた薬だ。なんと紀元前3世紀に興きた漢の古典書『傷寒論』に処方の記録がある。
葛根湯は日本薬局方に収録され、日本人が最も親しんでいる漢方薬の定番だ。葛根をはじめ、麻黄(マオウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、生姜(ショウキョウ)の7種類の生薬を配合している。
マメ科クズ属の多年草根を乾燥させた葛根は、発汗・鎮痛作用があるため、古来より風邪や下痢の民間治療薬に珍重されてきた。心臓や血管に負担をかける交感神経刺激薬のエフェドリンが含まれる麻黄は、西洋医学の気管支拡張薬と同じ作用があるので、咳やゼイゼイする喘鳴を抑える。
桂皮は穏やかな発汗・発散を促し、芍薬は痛みを和らげ、甘草は炎症やアレルギー症状を弱める。大棗と生姜は体を温め、緊張を和らげる働きがある。
この7つの生薬の絶妙の相互作用が葛根湯の薬理作用を生んでいる。そのため、方剤構成としては麻黄剤、薬理的には体を温め病気を発散して治す辛温発表剤に分類される。病院で処方される葛根湯は、煎じる必要のない乾燥エキス剤を用いる。
効能を示す葛根湯の適応証(体質)は、表証(急性期)、実~中間証(中程度以上の体力がある)、寒証(悪寒)とされている。
葛根湯は風邪の引き始めに効くのか? 効かないのか?
さて、このような高い薬理効果を秘めた葛根湯だが、風邪の引き始めに効く明確な根拠はあるのだろうか?
風邪の引き始めの人を対象にした対照比較試験(2014年)がある。
この試験は、48時間以内に風邪の症状がある18〜65歳の患者を対象に、葛根湯を飲む群と総合感冒薬を飲む群に分け、服用後4日後に風邪が悪化した人数を比較し、引き始めの風邪に対する葛根湯の効能を検証した。
その結果、葛根湯群では168名中38名(22.6%)、総合感冒薬群では172名中43名(25.0%)の風邪が悪化した。
したがって、葛根湯は初期の段階で処方した場合でも、総合感冒薬と比較して風邪の症状の悪化を防止する効能に大きな有意差が見られなかったことになる。
ただ、「証(体質)」に合っていない患者が含まれていたので、有意差が小さかったとも考えられる。つまり、葛根湯に合った証の患者を選べば、有意差が出た可能性はある。いずれにしても、葛根湯が風邪の引き始めに効く根拠は明確ではない。(Okabayashi S et al., Non-superiority of Kakkonto, a Japanese herbal medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the common cold: a randomized controlled trial., Intern Med. 2014;53(9):949-56.)