「石器」の痕跡から右利きが判明(shutterstock.com)
ヒトは2歳前後までは左右両方の手を自在に使って遊んでいるが、3~4歳を迎える時期に「利き手」が決まる。その際、世界基準で比較しても90%前後が右利きとなり、左手が利き手となる人は約10%に過ぎないといわれている。
考古学上のデータからは、少なくとも5000年前の地球上に存在した人間の90%が右利きだったとも推測されている。さらにこの度、ヒトが右手を好んで使うようになった転機が、従来考えられてきた時期よりも早かった可能性が示唆された。
注目の研究論文は『Journal of Human Evolution』11月号に掲載された、米国のDavid Frayer氏(カンサス大学人類学名誉教授)の筆によるものだ。
Frayer教授によれば、タンザニアで発掘された180万年前の化石人類「ホモ・ハビリス」の顎から、「右利きの最古のエビデンス」が見つかった。子細な解析の結果、上の前歯の唇側には擦り傷が確認され、そのほとんどが左上から右下へと走っている点に特徴がみられたという。
右手の石器で切りながら
1964年、東アフリカはタンザニアのオルドヴァイ峡谷でナイロビ博物館のルイス・リーキー博士によって発見された「ホモ・ハビリス(Homo habilis)」は、240万年前から140年前前まで存在していたとされるヒト属の一種。
「能力ある人」の意味で命名され、中国語では「能人」と呼ばれ、「handy man(器用な人)」とも言われる。
現況では最も初期のヒト属とされているが、その容姿も当然、ヒト属のなかでも最も現生人類とかけ離れている。推定身長は大きい場合でも135cmと低く、それとは不釣り合いな長い腕を持っていた。
また、同じ発掘地層から礫石器も見つかり、彼らが「高度な石器製造技術」を持っていたことも認められた。ちなみに脳容量は現生人類の半分ほどと考えられている。
そんなホモ・ハビリスの口内傷から利き手の歴史を解き明かしたFrayer教授――この傷の傾向から読み取った結論は、口に入れた食べ物を左手で引っ張りつつ、右手に持った石器で切断した際に刻まれたものという構図だった。