エイのエラとヒトの指の形成に同じ遺伝子が(shutterstock.com)
「人間の指は魚のエラから進化した」――100年以上前にドイツのある解剖学者によって提唱され、その後、忘れ去られていた仮説が、いま再び注目を集めている。
ヒトの指形成に重要な遺伝子が魚のエラ形成においても関与していたことが、『Development』誌に発表された研究で明らかになったのだ。
ドイツの解剖学者、Karl Gegenbaur氏が、この驚くべき仮説を提唱したのは1878年。今から138年も前のことである。
魚のエラは、軟骨でできている弓状の鰓弓(さいきゅう)という組織が土台となって、そこから放射状組織が広がる構造になっている。Gegenbaur氏は、このエラの構造と魚のヒレの構造の類似性に注目し、魚のヒレ(ひいては私たちの指)は鰓弓が徐々に変化してできたものではないかと考えた。
しかし、裏付けとなる化石が存在しないため、この仮説は受け入れられず、長く忘れ去られることとなった。
指の形成に重要な働きをする遺伝子に注目
今回この仮説に新たな面からアプローチしたのが、ケンブリッジ大学のAndrew Gillis氏が率いる研究チームである。
彼らは「ソニック・ヘッジホッグ」という遺伝子に注目した。この遺伝子は、指の形や数を決めたり、正しく配置したりする役割を担っている。
例えば、哺乳類の受精卵においては、初期段階で親指や小指の位置を決める助けをし、その後の成長段階では指が完全な大きさに達するのをサポートすることが知られている。
ちなみにソニック・ヘッジホッグという名前は、発見者がファンだったゲームのキャラクターにちなんで付けられたものだという。
今回、Gillis氏らの研究チームは、この遺伝子が魚のエラの形成においてどのように関与するかを検討した。研究に用いたのは、ガンギエイというエイの一種。原始的な特徴を維持する軟骨魚類である。
彼らは遺伝子操作によって、エイの受精卵が発達するさまざまな段階でソニック・ヘッジホッグ遺伝子の働きを抑制し、影響を観察した。
その結果、初期段階でこの遺伝子の働きを抑制するとエラの形がいびつになるなどの形成異常が生じ、後期の段階で抑制すると、形は正常であったものの、正常の大きさまで達しないことがわかった。
つまり、この遺伝子はエラの形成においても、ヒトの指の形成と同じ働きをしていることが示されたのである。