DNA鑑定秘話 第20回

女児殺人の「島田事件」は疑わしい法医鑑定を根拠に死刑判決

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 他の冤罪事件と同様に、島田事件でも赤堀さんを冤罪に追い込んだ警察、検察庁、裁判所の違法性、有責性が浮き彫りになる。

 第1に見込み捜査による別件逮捕だ。警察は3月15日、モンタージュ写真を公表。25~30歳くらいの定職を持たない非行歴のある男、3月10日頃から行方不明の男を中心に、容疑者を絞り込む。その数はおよそ200人。赤堀さんは、3月3日に自宅を出てから行方不明のため、捜査の対象になり、別件逮捕される。赤堀さんの他に、犯行を自白した者があったことが再審で判明する。その容疑者を見過ごした理由は何か? それは、初動捜査で精神病歴者や知的障害者に絞り込んだ、警察の予断と偏見に基づく見込み捜査に他ならない。

 第2に、違法な自白強要と虚偽の供述調書の作成だ。逮捕された赤堀さんは、早朝から深夜まで脅かされ、頭を小突かれ、首筋を押さえつけられるなどの暴行を受ける。再逮捕後は、取調べはさらにエスカレート。その後の捜査で得られた客観的な証拠と、赤堀さんの供述内容に矛盾が発生するたびに、警察は捜査結果に合わせた虚偽の供述調書を作成。辻褄を合わせようと図った警察の捜査の違法性、犯罪性は、断じて許されない。

 第3に、目撃証言の信用性だ。目撃証言の中には、浮浪者風の男や髪の毛を分けた勤め人風の男があった。だが、赤堀さんが逮捕され、公判に入ると、これらの目撃証言は、赤堀さんの姿に似た証言にすり替えられ、少しずつ変質していく。一方、近隣で赤堀さんを知る人は多かったが、事件当日、赤堀さんを見たという目撃証言は皆無だった。裁判所は、虚偽の自白調書にとらわれただけでなく、赤堀さんに有利な状況証拠を一切無視し、誤判に陥った。

 第4に、疑念が深い法医鑑定に基づいた誤判・誤審だ。女児の遺体には、首を絞めた跡、左胸に硬い物で殴った傷、陰部の裂傷があった。捜査段階で遺体を鑑定した鑑定医は、首を絞めた跡は生前、左胸の傷は死後と判断した。だが、自白調書では、強姦後に石で女児の左胸を殴り、殺意を持って首を絞めたとなっている。鑑定書と自白調書は、犯行の順序が明らかに異なる。

 疑問を持った静岡地裁は審理を再開、東京大学の古畑種基教授に鑑定を依頼。古畑教授は、傷ができた順序は自白調書の通りであり、石の殴打で左胸の傷はできると鑑定。静岡地裁は死刑判決を下し、東京高裁も最高裁も古畑鑑定を支持した。

 ところが、再審では、複数の法医学者が、左胸の傷、陰部の裂傷は死後のもの、石の殴打によって左胸の傷はできない、陰部の裂傷は強姦によるものではないという鑑定書を提出。古畑鑑定のまやかしが暴かれ、再審無罪へ大きく前進した。疑わしい法医鑑定を鵜呑みにしたまま、誤判・誤審に終始した裁判所の怠慢と有責性は、決して免責されない。

 第5に、検察庁による証拠隠匿だ。再審に入り、赤堀さん以外に犯人であると自白した者がいたことが判明したため、弁護団は被疑者の自白調書の提出を再三再四、検察庁に求めたが、拒絶された。検察庁の違法な職権乱用も厳に追及されるべきだ。

 逮捕から34年8ヶ月、死刑判決確定から29年8ヶ月。4次にわたる再審申立。赤堀さんが再審無罪を勝ち取るまでの長い道のりだった。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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