2014年3月27日、静岡地裁は、再審開始と死刑及び拘置の執行停止を決定。袴田さんは、東京拘置所から釈放される。同年3月31日、静岡地検は、静岡地裁の再審開始決定を不服として即時抗告。同年8月5日、抗告審理で弁護側の開示要求に対して、検察側が一審当時から「存在しない」と主張し続けて来た5点の衣類のネガフィルムを警察が保管(隠匿)していた事実が判明した。
釈放された袴田さんは、東京と浜松市の病院で静養後、2014年6月末に退院、姉の秀子さんの自宅で同居している。だが、47年7ヶ月もの長期にわたる独居拘禁は、袴田さんの精神状態を深く阻害した。妄想や拘禁性精神障がいを招き、糖尿病なども併発しているという。心身の回復には、少し時間がかかるかもしれない。
警察の不法な初動捜査、12時間から17時間に及ぶ過酷な取り調べ、拷問や自白の強要による供述調書の違法性、血染めの5枚の衣類発見の不自然さと証拠の隠滅や捏造の疑惑、人道的な人身保護請求や医療的な救済を抹殺し続けた国や司法の非道性......。袴田事件の犯罪性を挙げれば、枚挙にいとまがない。
2015年8月現在、袴田事件は、東京高裁で即時抗告審が継続中だ。袴田さんの再審完全無罪は、まだ実現していない。だが、事件の犯罪性は、厳に指弾されるべきだ。袴田さんの冤罪は、一刻も早く晴らされなければならない。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。