医薬品としても大麻は古くから使用されており、中国最古の薬物学書『神農本草経』に薬草として記載されている。日本でも戦前まで「日本薬局方」の医薬品であり、鎮痛剤や喘息治療に使用されていた。ただ、ここで使用されていたのは、サプリメントのようなCBD単一成分ではなく、THCを含む多種のカンナビノイドの製剤であり、各種成分の相乗効果から、より強い薬理効果を持っていた。
歴史の流れが変わったのは20世紀前半で、国際的に大麻を含む麻薬の規制が強化される中、日本ではGHQ占領下の1948年に大麻取締法が制定された。日本人と大麻の関係を激変させたこの法律自体に問題があるという議論もあるが、ここではあえて踏み込まないことにする。
規制強化の一方で、薬理学や生命科学の進歩により、大麻の作用メカニズムの解明は進んだ。1992年に脳内マリファナ(エンドカンナビノイド)が発見されたのに続き、1998年には2つのカンナビノイド受容体が発見。カンナビノイドは生体内で生成され、神経・免疫系を介して恒常性の維持に関与していることが明らかになった。
さらに臨床研究では、HIV、アルツハイマー、うつ病、強迫性障害、不眠症、てんかん、気管支喘息、帯状疱疹、多発性硬化症、筋委縮性側索硬化症、クローン病、パーキンソン病、緑内障など、250もの疾患への有効性が報告された。
大麻の誤った危険性の認識
大麻の有害性に関しても再認識が進み、2007年、医学雑誌『ランセット』では、大麻はタバコやアルコールより身体依存や身体への有害性が低いと報告された。さらに2010年の論文では、暴力・事故などの社会的有害性の面からも、より有害性が低いとしている。
これらを受けて、大麻の誤った危険性の認識を改める動きが世界的に起こった。現在、医療大麻は、全米23州とワシントンDCで、世界的には21か国で合法的に使用できるようになり、一部では嗜好用の大麻も解禁されている。
さて、日本はどうするか? 「ダメ、ゼッタイ」とする根拠が崩れ、医学的有効性が認められつつある中で、現実的な対応が求められている。
個人的には、CBDオイルがサプリメントとして使えるのなら、それでいいのではないかと考えた。しかし、単一成分のサプリメントは高価であり、先に述べたように効果も限定的であるという。ただ、法改正まで求めるのは現実的ではない。学会としては、有効成分を安価に機能性食品として普及させることを最優先に考えているという。
いずれにしても大規模臨床試験で厳密に効果が確認されているわけでもないので、臨床使用への道のりは長い。日本では大麻取締法により、研究者の動きにも縛りが強い一方で、特定の疾患を対象にした臨床試験の話もあるという。今後のデータの集積と世論の動きに注目していきたい。
ドクター寺猫(ドクター・てらねこ)
公立病院勤務の外科学会専門医。がん治療に10年以上かかわり続けているが、いわゆる3大治療ががん治療の中心に居座る時代はもう長くないと考え、一般診療のかたわら、インド医学を中心とした代替医療の世界を渉猟している。医療が良くなるためには、その仕組みの変化も必要と思い立ち、大学院で医療政策も学んだ。最近では医療でもっとも大切なのは「考え方」であると思い至り、思想的な深みを求めている。ねこと詩吟と神社仏閣をこよなく愛するアラフォー女子。