脳科学者・中野信子さんに聞く----映画『カフェ・ド・フロール』が描く心と脳のメカニズム

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映画『カフェ・ド・フロール』(公式HPより

 4月16日、恵比寿ガーデンシネマで映画『カフェ・ド・フロール』の公開記念トークショーが行われた。ゲストは、いま注目の脳科学者の中野信子氏。この作品では、2つの時代と場所を舞台に、愛や嫉妬、執着に悩む男女が描かれる。彼らが翻弄される嫉妬という感情のメカニズムや、作品の鍵となる"ソウルメイト"の概念について、科学的見地からトークを展開した。

出産後は脳内ホルモンのオキシトシン増加で嫉妬深くなる

 1960年代のパリと現代のモントリオールに暮らす人々の人生が交錯し、その時空を超えたつながりが驚きと感動をもたらす本作。パリのシングルマザー・ジャクリーヌは、障害のある幼い息子ローランと仲良しの少女に嫉妬し、徐々に感情をコントロールできなくなっていく。「息子が他の人間に取られてしまう」という漠然とした不安からだ。このように相手への愛情が強くなるほど、嫉妬心も深くなるという経験をした人は多いのではないだろうか。

 中野氏はジャクリーヌの強い愛情と嫉妬との関連性について、集団の内部を結束させる"向社会的行動"という視点から次のように解説する。

「この"向社会的行動"を司っているのがオキシトシンという脳内ホルモンで、出産をきっかけに増加します。オキシトシンが増えると子供に対する愛着が生まれ、集団の結束が強化されるのです」

 それと同時に、結束を乱すよそ者(この場合は少女)を排除したいという感情が強くなり、嫉妬も強まると解釈されているという。

"ソウルメイト"という概念は美しい勘違い

 一方、現代のモントリオールでは、キャロルが長い間"ソウルメイト"だと信じていた夫が若い恋人に走ったことで、3人の愛憎劇が展開される。"ソウルメイト"とは、肉体を超えた深い精神的なつながりを持つ運命の人のことだ。しかし中野氏は、「"ソウルメイト"という考えは非常に非科学的で、科学では否定も肯定もできないもの」と断言する。科学者はこれを、「美しい勘違い」と呼ぶそうだ。

 さらに、「科学者として "ソウルメイト"という実在するかどうかわからない概念を評価する時、まず"その概念には何の価値があるのか"を考えてみます」と続ける。つまり、「ソウルメイトがいる」という勘違いをするのは何かしらメリットがあるからで、その概念を受け入れることにより、癒やしや快楽を得られるのである。

 ここでは、夫に裏切られたキャロルが、その心をどう癒やしていくかがポイントになるが、彼女はあることがきっかけで、過去との辻褄合わせをしながら真の"ソウルメイト"について考えるようになる。"ソウルメイト"の存在を信じ込んでいなければ、その考えにも至らず、自己解決も癒やしも得られなかっただろう。

 人間の感情のメカニズムを丁寧にわかりやすく説明してくれた中野氏。そのひとつひとつの言葉に場内からは納得の溜息が漏れていた。『カフェ・ド・フロール』は恵比寿ガーデンシネマ、ヒューマントラスト有楽町ほかにて公開。
(文=編集部)


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中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。1975年生まれ。世界で上位2%のIQ所有者のみが入会できるMENSAの会員。現在、脳や心理学をテーマに研究や執筆活動を積極的に行う。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。

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