『カフェ・ド・フロール』 2011年/カナダ・フランス/カラー/英語・フランス語/120分 監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ 出演:ヴァネッサ・パラディ、ケヴィン・パラン、エレーヌ・フローラン、エヴリーヌ・ブロシュ、マラン・ゲリエ © 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films 配給:ファインフィルムズ 3/28(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
気鋭の監督が紡ぐ、科学では証明できない"魂の奇跡"の物語。
1960年代のパリと現代のモントリオール。かたやシングルマザーと障害のある息子、かたや離婚した夫婦と夫の若い恋人。交わるはずのない2つの時代と場所に生きる人々の人生が1点でつながった時、人智を超えた奇跡の物語が明かされる。
"運命的に出会った2つの魂は、時空を超えて結ばれるのか"という現代科学では証明できないテーマに取り組んだのは、『ダラス・バイヤーズクラブ』('13)のジャン=マルク・ヴァレ監督だ。無認可のエイズ治療薬を患者に提供しようと奔走する男を描き、第86回アカデミー賞の3部門を受賞した。本作では雰囲気をがらりと変え、ミステリー仕立ての美しく神秘的なストーリーを綴っている。異なる世界をつなぐのは、マシュー・ハーバートの名曲「カフェ・ド・フロール」。潜在意識下の記憶を宿す曲として重要な役割を果たしている。
1969年パリ。美容師のジャクリーヌにとって、愛くるしいダウン症候群の息子ローランの存在は何よりも大切な生きがいであり、溢れんばかりの愛情を注いでいる。ある日ローランのクラスに同じダウン症の少女ヴェラが転校してきた。一目で惹かれ合い、少しの間も離れたがらない幼い2人の関係は、学校で問題視されるようになる。
2009年のモントリオール。DJのアントワーヌは妻キャロルと2人の娘を設け、穏やかな家庭を築いていたが、"運命の女性"と出会ったことで妻と別れることに。心の痛手から立ち直れずドラッグに頼るキャロル。彼女は夢に頻繁に出てくる小さな男の子のことが気にかかっているが、やがて目覚めている時にもその子の幻覚を見るようになる。
深すぎる愛情は執着や依存と紙一重
ダウン症候群は染色体の突然変異によって起こり、患者の約95%は21番目の染色体が1本多い"標準型21トリソミー"だ。一般的な特徴として、体・精神の発達遅延、筋緊張の低下、特異的顔貌、低身長などが見られる。ジャクリーヌとローランが生きる1969年当時、患者の平均寿命は25歳だったという。今よりもさらにダウン症候群への理解がなかった時代だが、気丈な彼女は息子を普通学級に通わせたりさまざまな習い事をさせたりと、健常児と同じように育てようとする。
この母親の愛情は深く感動的だ。しかし、それが愛を通り越して"執着"になっていることは否めない。ローランの世話を心の拠り所とし、その行為に精神的に依存することで、自分の存在意義を見出しているようにも思える。
少女と運命的な出会いをした息子に自我が芽生え、ジャクリーヌの思いが届かなくなった時、不安に苛まれた彼女は物事を客観視できなくなっていく。状況は違っても、同様のことは多くの人に起こる可能性があるだろう。ダウン症への風当たりの強さと追い詰められた心は悲劇をもたらし、未来に展開されるもうひとつのエピソードへと続いていく。
この作品の核となるのは、精神世界に属する"ある要素"だ。これに関して60年代にアメリカ・ヴァージニア大学の医学部教授が実証的な研究を行ったが、科学的見地から批判する人も多かったようだ。このように"スピリチュアル"は胡散くさい目で見られがちだが、果たして目に見えることだけが真実なのだろうか。かつては非常識だったことが、現在では解明されて常識になっていることもある。不可思議で分からない領域があるからこそ、人間は追究を続け、想像という素晴らしい力を持つことができるのかもしれない。
許しと運命の愛を得るための時空を超えた魂の旅。謎を構成していたピースがすべてはまった時、驚きとともに切なく優しい余韻に包まれるだろう。
(文=編集部)
『カフェ・ド・フロール』
2011年/カナダ・フランス/カラー/英語・フランス語/120分
監督・脚本:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:ヴァネッサ・パラディ、ケヴィン・パラン、エレーヌ・フローラン、エヴリーヌ・ブロシュ、マラン・ゲリエ
© 2011 Productions Café de Flore inc. / Monkey Pack Films
配給:ファインフィルムズ
3/28(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開