厚労省が本気で考える"マイルドヤンキー"での介護人材不足対策は成功するのか?

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 実は塚原氏の記事では、彼らが「お店気質」、つまりは個人事業主志向が強いことに触れ、行政に対して「介護職員が一定の経験と実績を積めば、フランチャイズではなく、『のれん分け』というかたちで勤務先から完全独立でき、個人事業主として介護サービス事業所などを開業できる体制を整備してもらいたい。当初は必要書類の作成から、資金の調達、経営のノウハウまで、手取り足取り面倒を見ていってあげる必要があるだろう。」と、まっとうな展望を述べている。

 しかし、この記事はマイルドヤンキーについて、「こよなく地元を愛する地元志向のヤンキーたちこそ、衰退する地域コミュニティの救世主であり、厚労省がめざす地域密着型の介護・福祉空間を支えていける適任者といえる。」と結論付けている。

マイルドヤンキーとは誰かにとって都合のいい集団

 メディアや霞が関の住民たちは、「上昇志向を持ってがむしゃらに働くよりも、自分が暮らす生活圏でほどほどの収入を得てほどほどの人生を送る方が幸せではないか」とする価値観を持つ若者が増えているかのようなイメージを大量に送り出す。しかし、こうした言説は格差社会を肯定し、低所得層に留まり続けることを美化しているにすぎないのではないか。むしろ「頑張ればもっと上に行ける」と思ってもらえるような方策や環境の整備こそが必要なのではないか。その意味で塚原氏の指摘は正しい。

 国税庁の調査では年収300万円以下が全体の40.9%を占めている。それに対して、年収が1000万円を超えるのは全体の5%に満たない。収入の格差は次第に広がりつつある。(統計元:国税庁 平成25年 民間給与実態統計調査結果より)

 マイルドヤンキーがどちらに属するかはいうまでも無い。300万円あれば地方なら十分に暮らせるとする意見もあるが、ショッピングモールでの消費財の価格はそれほど差があるわけではない。住宅費の安さや親元でのパラサイト生活が可能であれば何とかしのげる程度だろう。消費税や電気料金などが軒並み値上がりをし、加速度的に生活難は進む。おそらく多くが非正規雇用や中小企業に勤め、彼らの生活はとても楽とは言えない。

 こうしたマイルドヤンキーが「経済を救う」とか「介護人材不足の救世主である」などの発言にはどうも胡散臭さが付きまとう。こうした安価な労働力を提供し、ギリギリの生活の中から消費し続ける階層の固定化を望んでいるかのようにさえ聞こえる。

 前出の竹内氏は、会場に詰め掛けた全国の福祉・介護施設の経営者やリーダーたちに向かって「近くのショッピングモールで軽自動車に乗りエグザイルを聞くような若者を見かけたら、すぐに声をかけてください。彼らはいい人材ですからね」と笑いを誘おうとしたが、会場には戸惑いが広がった。

 この違和感こそ、霞ヶ関の官僚たちが机上で考えていることと実際の介護現場で葛藤している人たちが感じていることのギャップなのだろう。

 マイルドヤンキーは固定された階層なのか? 今後のあり続けるのか? 本当にそうした層が拡大していく日本は大丈夫なのか? 霞ヶ関にこそもっと民の生活の切実さを感じ取ることができる柔らかい(マイルドな)脳みそが必要なのではないか?
(文=編集部)

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