監修:札幌中央病院内科グループ
心臓は握りこぶしだいの大きさで心筋と呼ばれる筋肉からできており、この心筋が収縮と拡張を繰り返して全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。この心筋が活動するために栄養を与えている血管を冠動脈といい、心筋専用の血管であり、大動脈から2本(左と右)に枝分かれして、心臓の表面を取り巻いています。狭心症とは、冠動脈の血管内腔が、動脈硬化やけいれんなどにより狭くなり、心筋への血液補給が不足した状態の時におこり、冠動脈が詰まり血液補給が途絶えた状態では心筋梗塞を発生します。そしてこれら冠動脈の病気を虚血性心疾患と呼びます。
虚血性心疾患の原因の多くは冠動脈の動脈硬化であり、動脈硬化は加齢とともに進んでいきますがこの他にも、高血圧・高脂血症・糖尿病・喫煙・ストレス・肥満・遺伝などが動脈硬化を進める原因(危険因子)となっています。狭心症の種類には、発作の現れかたにより「労作性狭心症」と「安静時狭心症」があり、症状により「安定狭心症」と「不安定狭心症」に分けることもあります。
●労作性狭心症
冠動脈の内腔が動脈硬化などにより狭くなっている場合、階段を上がる、早く歩くなど労作(運動)や興奮などにより心拍数が増加しても心筋に十分な血液を送ることができずに発作が現れます。
●安静時狭心症
安静時には血液の流れもスムーズで十分にもかかわらず、冠動脈自体がけいれんして収縮し、心筋への血液が不足して発作が現れ場合があります(異型狭心症)。特に深夜から明け方の睡眠中の一定時刻に発作を起こすことが多いようです。
●安定狭心症
日常生活の中である一定以上の労作(運動)により発作が起こるというように、発作が現れる労作の量が一定している狭心症です。
●不安定狭心症
数ヶ月発作が無かったのに毎週発作が起きるとか、安定狭心症だったのが入浴などの軽い労作で発作が現れるなど、症状の現れ方が不規則な狭心症で、安定型に比べ急性心筋梗塞や突然死につながる可能性が高く注意を要する狭心症です。
狭心症発作の典型的な症状は前胸部を中心とした、締め付けられるような圧迫感と不快感であり、人により感じ方が異なり、首や背中、左肩から腕にかけて圧迫感や痛みをともなう場合もあります。また、これと同時に、冷や汗、左腕のしびれ、のどがつまる、奥歯がうずく、などの場合もあります。そして、これらの症状は安静にしていれば殆どが15分以内に消えます。激しい痛みが30分以上続く場合は、より重い心筋梗塞を疑う必要があります。
●問診
受診する時は症状が消失している場合がほとんどであり、医師は患者自身の訴えから、狭心症かそうでないか判定します。したがって、痛みの性質、その部位、痛みが起きた状況、痛みの続いた時間など、正確に伝えることが重要となります。
●発作時心電図
発作時には心電図上に特有な心筋虚血の変化(ST変化)を認め、これにより診断可能です。
●運動負荷試験
労作性狭心症の疑いがあるときは、エルゴメーターと呼ばれる自転車をこいだり、トレッドミルと呼ばれるベルトコンベアーの上を歩いたりして心拍数を増やし、その前後の心電図の変化から、狭心症の診断や重症度、心臓の能力を判定します。
●ホルター型心電図
安静時狭心症の疑いがあるときは、24時間心電図が記録できる「ホルター型心電計」を付け、普通の生活を送り心電図の連続監視を行う場合があります。
●心筋核医学検査
放射性医薬品を静脈に注射して、シンチレーションカメラという装置に十数分間動かずにいるだけの検査で、心筋の虚血している部分がわかるほか、虚血部に到達しているおおよその血液量を知ることもできます。
●冠動脈造影検査
冠動脈の狭窄の位置や程度を詳しく調べるための検査です。そけい部や腕の動脈から、カテーテルと呼ばれる細い管を冠動脈まで挿入し、造影剤という薬を流しながらX線撮影することにより、冠動脈の状態を詳しく知ることができ、この検査は、狭心症の状態を知る上でも、また、その後の治療方針を決める上でもなくてはならない検査です。
治療方法は、大きく分けて、薬による内科的治療法と外科的治療法があります。
治療法の選択にあたっては、冠動脈の状態がどうなっているか、年齢や他に病気が無いかなどいろいろな身体状況を考慮して決めることになります。
●薬物療法
症状が安定しており、薬でコントロールできると判断された時には、危険因子を減らし、薬剤を用いる薬物療法が選択されます。
使用する薬剤には、血管を拡張させ血液の流れをスムーズにするニトログリセリンなどの硝酸薬、心拍数の上昇を抑え心筋が必要とする酸素量を少なくするβ遮断薬、血管の収縮を防ぎ冠動脈のれん縮を解消するカルシウム拮抗薬、血栓を防ぎ血液を固まり難くする抗血小板薬、などがあります。発作時にはニトログリセリンの舌下錠が著効し普通2~3分で痛みは消失します。
●外科的治療法
薬物療法で改善が得られない場合に選択され、冠動脈形成術(PTCA)と冠動脈バイパス手術(CABG)があります。
PTCAは、冠動脈造影検査と同じ方法で、細く柔軟な針金(ガイドワイアー)を狭窄した冠動脈まで通します、そしてガイドワイアーにそって風船の付いたカテーテル(バルーンカテーテル)を狭窄部に導き、バルーンを膨らませて狭窄部を押し広げます。PTCAは、手術により胸を開けることなく冠動脈の血流を保つことができ、患者さんの負担が少なく非常に有効な治療法です。
しかし、この治療法にも欠点があり、拡張に成功しても2~3割の患者さんで血管が再び狭窄します。これを防ぐため拡張した血管の内部に金属の網(ステント)を挿入する方法、冠動脈の動脈硬化性病変を削りとるアテレクトミー、レーザーを用いたレーザー冠動脈形成手術など、新しい冠動脈形成術も行われています。
バイパス手術(CABG)では、冠動脈の狭窄部分を迂回する形で新たな血液の通り道を作ります。作り方は、足の静脈を利用してバイパスを作る方法と、内胸動脈などの動脈を直接つなぐ方法があります。手術によって8割以上の人は、症状が完全に消失するか、劇的に改善します。そして、静脈を使用した場合5年後に約3割が閉塞し、動脈を使用した場合では10年後でも約9割が正常に働いているといわれています。
PTCA、バイパス手術、それぞれ特徴を備えていますが、狭窄の程度・数・位置、患者さんの身体状況などを考慮して、最も適した治療法が選択されます。
虚血性心疾患の危険因子は、高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙・肥満・ストレスなどです。栄養や塩分の取りすぎに注意して、適度な運動を心がけることが大切です。どんな最新治療も、差し迫った危機を回避するための1つの手段にすぎません。最良の治療は動脈硬化の予防で、危険因子の除去と毎日の運動です。
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