肺炎とは、通常、肺の実質である肺胞の急性の炎症を意味します。肺の組織には、肺胞の他に間質と呼ばれる領域があり、この部分の急性炎症は間質性肺炎と呼ばれます。ですから、ただ肺炎と言った場合には、肺胞領域の炎症を指します。
肺胞に炎症細胞が浸潤した結果、肺胞は浸出液によって満たされてしまいます。胸部レントゲンをとると、この浸出液に満たされた肺胞が異常陰影として認められます。
肺炎は、抗生物質の登場以前は高い死亡率を示していましたが、現在は、良質な抗生物質の発達により、死亡率は激減しています。しかし、高齢者や基礎疾患を有する患者さんでは、未だに死亡原因として重要な疾患ですから注意が必要です。
臨床的には、呼吸器症状(咳、痰、胸痛、呼吸困難など)に全身症状(発熱、全身倦怠感など)が加わり、胸部レントゲン写真で部分的に拡がる異常陰影が認められれば肺炎と診断されます。肺炎と診断されれば、原則的に入院治療となりますが、最近は、良質な抗生物質がありますから、程度が軽ければ外来でも治療することができます。
肺炎は、炎症を起こす原因によって分類されるのが普通です。つまり、細菌の感染が原因なら、細菌性肺炎、マイコプラズマが原因なら、マイコプラズマ肺炎、ウイルスならウイルス性肺炎と呼びます。また、稀には、カビ類(真菌)によって起こる肺炎もあります。
その他特殊な肺炎として、AIDSとの関連で注目されたカリニ肺炎などがあります。カリニ肺炎は、ニューモシステスカリニとよばれる原虫が原因の肺炎で、AIDS患者によく見られる肺炎です。両側びまん性に陰影が見られ呼吸不全状態となる致命的な肺炎です。しかし、早期に診断できれば、ペンタミジンやST合剤(バクタ)で改善させることができます。ここでは、頻度が高い細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎について述べることにします。
細菌性肺炎
細菌性肺炎は、細菌の感染が原因で肺胞実質に炎症が拡がり、その結果、肺胞腔に滲出液が貯留した状態です。通常は、肺区域ごとに侵され、両側に拡がったり、全ての肺葉を侵すことはあまりありませんが、重症化したときには、び漫性に肺炎が拡がり致命的にさえなります。
起因菌としては、肺炎球菌、肺炎桿菌、インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは異なる)、黄色ブドウ球菌などが原因となります。在郷軍人病(レジオネラ肺炎)も増えています。レジオネラ菌は最近発見された新しい病原菌で、しばしば重症化して致命的になります。我が国では、温泉や24時間風呂で菌がみつかっています。診断が速ければ、マクロライド系抗生物質で治癒可能です。
これらの細菌による肺炎は比較的健康な人達が罹患することが多く、市中肺炎とも呼ばれます。これらの肺炎は、発見が早期で、適切な化学療法さえ行われれば比較的容易に治癒させることができます。
一方、高齢者や、もともと慢性の呼吸器疾患(特に慢性閉塞性肺疾患)がある患者さんでは、緑膿菌、セラチア菌などの、いわゆる弱毒菌の感染が多く治療が難しいことがあります。"肺炎は老人の友"と言われるように、高齢者の肺炎はしばしば致命的になります。
マイコプラズマ肺炎
Mycoplasma pneumoniaによる肺炎がマイコプラズマ肺炎です。マイコプラズマは細菌でもウイルスでもない特殊な病原体ですが比較的よく見られる肺炎です。乳幼児から老人まで見られますが、5~20歳代に最も多いとされています。従って、小児科領域ではもっともポピュラーな肺炎といえます。
一般的には、症状が強いわりには重症化せず、致命的になることも稀です。健康者に発病するため代表的な市中肺炎ですが、非定型肺炎に分類されます。
4~5年周期で流行することが多いため、オリンピックの年にはやるなどとも言われます。患者の飛沫でヒトからヒトに感染するため、学校や家庭内での集団流行も見られます。
細菌性肺炎
発熱、咳、痰など、かぜ症候群やインフルエンザと同様の症状が主体ですが、これらの程度がより重症になります。特に痰は膿性で、黄色や錆色がかっていることが多くなります。時に血痰や臭気を伴っています。
発熱はほぼ必発の症状ですが、高齢者ではあまり激しくないこともあり注意が必要です。発熱が1週間以上持続し、咳、痰などの呼吸器症状が見られるときには、医療機関を受診し、胸部レントゲン写真をとる必要があります。
マイコプラズマ肺炎
初発症状としては、咽頭痛、発熱、咳、痰などのいわゆる感冒様症状で、細菌性肺炎と同様ですが、細菌性肺炎に比べて痰の量は少なく、むしろ痰を伴わない乾性の咳が続くことがあります。
痰の性状も、細菌性肺炎と異なり、漿液性で周期もないのが普通です。通常は、あまり重篤な合併症は認められませんが、稀に中枢・末梢神経障害が認められることがあります。肝機能障害はよく見られますが、程度は軽いことが多いようです。
細菌性肺炎
肺炎の診断は、通常、胸部レントゲン写真でなされます。上記の症状があり、聴診所見で、特有の湿性ラ音が聞かれれば肺炎の可能性が高いですが、確定診断するためには胸部レントゲン写真で異常陰影が見られなければなりません。
肺炎の診断には胸部レントゲン写真が必要ですが、これだけでは、細菌性肺炎の診断はつきません。後述する非細菌性肺炎でも同様な陰影を呈することが多いのです。そのため、細菌性肺炎を疑った場合には、喀痰の細菌培養を行う必要があります。喀痰の培養で起因菌を同定できれば、細菌性肺炎の診断が確定します。
その他の検査では、白血球数やCRPなどの炎症反応が有用です。細菌性の場合は、通常白血球数が増加し、かつ、好中球数が増加します。一方、非細菌性肺炎では、白血球は増加しないのが特徴です。CRPは細菌性、非細菌性の両者で亢進しますが、特に前者の方が強いのが一般的です。
マイコプラズマ肺炎
他の肺炎と同様に胸部レントゲン写真が決め手になりますが、確定診断は、痰や咽頭うがい液からのMycoplasma pmeumoniaeの検出か、血清抗体価の測定によります。胸部レントゲン写真はスリガラス様陰影が特徴的で、細菌性肺炎による大葉性肺炎のような濃厚な陰影とは異なります。
白血球の増多も認められないのが普通ですから、細菌性肺炎との鑑別に血液検査は有用です。確定診断には前述の血清抗体価の測定が有用です。抗体価が上昇していればマイコプラズマ肺炎と診断することができます。ただし、この肺炎は、潜伏期が約20日と長いために、最初の検査で陰性でも、その後に上昇してくることがありますから注意が必要です。
持続する呼吸器症状に加え、胸部レントゲン写真ですりガラス陰影が認められて、白血球増多がなければ、マイコプラズマ肺炎の可能性が高くなりますが、クラミジアによる肺炎(オーム病)でも同様の所見を呈します。比較的稀な肺炎ですが、オームやインコなどの鳥類から感染するので、鳥を飼育しているかどうかをチェックする必要があります。オーム病との鑑別も血清抗体価を測定すれば診断することができます。
細菌性肺炎
肺炎の治療の根本は、抗生物質による化学療法ですが、入院して行うのが原則です。それは、肺炎は、基本的に重症の病態で時に致死的になることがあるためで、また、強力な化学療法は経静脈的に行われることが多いためです。しかし、近年の良質で強力な抗生物質の発達により、比較的軽症な肺炎であれば、外来での経口投与だけで治癒させることも可能になっています。
抗生物質の選択は起因菌の種類によって決まります。我が国で使用が認められている抗生物質は非常に膨大ですが、基本的には、ペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシッド系、マクロライド系、ニューキノロン系などに分けられます。そして、細菌性肺炎にもっともよく用いられるのは、ペニシリン系とセフェム系です(両方を合わせてβラクタム系ともいいます)。
マイコプラズマ肺炎
治療の第一選択はマクロライド系抗生物質の投与です。診断が正しければ、マクロライドにより容易に治癒させることができます。また、軽症の場合は自然に治癒してしまう場合もあります。テトラサイクリン系も有効ですが、βラクタム系の抗生物質は効果がありません。マイコプラズマ肺炎は、あまり重症化しないのが普通ですが、同じ非定型的肺炎であるオーム病は、時に致命的になることがあります。オーム病もマクロライド、テトラサイクリン系が有効ですから、早期に適確な診断をくだすことが重要です。
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