痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻の三種類に部類される痔は、極めてありふれた日常よく遭遇する疾患だ。したがって、肛門から出血したり痛みがあっても、痔に違いないと自己判断して病院には行かず、放置しがちになる傾向がある。
しかし、肛門からの出血や痛みといった症状の背後には、重大な疾患が隠されている可能性がある。以下に痔と症状が似ている疾患を紹介する。放っておくと、重篤な状況に陥る病気も含まれているので、「たかが痔」の自己判断は危険であると自覚してほしい。
①肛門から何かが出てくる→直腸脱、肛門ポリープ
痔核(いぼ痔)は進行すると、排便時、または日常的に、肛門から痔核が飛び出してくるようになる。しかし、排便時に肛門から何かが飛び出しているという症状を訴える人の中には、直腸脱や肛門ポリープにかかっているケースがある。
直腸脱とは、直腸を固定している筋肉と肛門の括約筋が緩んで、直腸の下のほうが肛門から出てくる状態だ。軽いものだと手で押し込めば元に戻るが、腸が外に出たままの状態で肛門の周囲の皮膚がただれて痛みを生じる場合がある。ひどいものだと30センチ近くも肛門の外に直腸が出てくることもある。生まれつき肛門付近の組織が弱い人や、高齢者によく見られる。直腸脱の場合は、肛門部を圧迫する帯を使用したり、それでも効果がない時には肛門括約筋が緩んでいるため直腸粘膜を縫い縮めたうえで、さらに肛門がある程度以上広がらないようにする手術が必要となる。
肛門ポリープは、直腸と肛門のつなぎめである歯状線のでこぼこした部分の出っ張ったところが炎症を起こして肥大し生じるものだ。慢性の切れ痔(裂肛)の際に、よく発生する。肛門ポリープは切除すれば治る。
②肛門から出血する→直腸がん、肛門がん、潰瘍性大腸炎、クローン病
痔には特徴的な症状だが、特に肛門から出血があった場合は、痔と思い込むのは非常に危険だ。直腸がんや肛門がん、また悪性疾患ではないが最近若い人を中心に増えつつある潰瘍性大腸炎、クローン病などの難治性疾患の可能性も考えなくてはいけないからだ。
直腸ガンは、直腸の粘膜から生じる、いわゆる腺がんだ。腺がんとは、粘液などを分泌する組織や液を送り出す管などから発生する種類のがんである。胃がんや膵臓がん、甲状腺がんもこの種だ。直腸がんは痛みがなく、出血で症状が始まることが多いのが特徴。初期に発見できれば治りやすいが、出血以外の顕著な症状が便通異常(残便感や便が細くなる、頻繁な下痢と便秘の繰り返しなど)ぐらいなので、ちょっとした不調ぐらいに考えて見逃しがちだ。いざ発見された時には、根治治療が難しいほど進行していることが多い。
肛門がんは直腸の下端から肛門の縁の皮膚の間にできるがんで、直腸粘膜由来の腺がん、肛門腺や肛門上皮由来の粘液がんや扁平上皮がんなどがある。指で固いかたまりに触れることができ、痛みがあるケースが多い。
いずれの場合も、医師が指で触れ直腸の中を覗いてみれば(直腸指診)、簡単にわかる。少しでも心配があれば、早めに医師の診察を受けて早期に発見することがなによりも大切だ。
潰瘍性大腸炎やクローン病の場合、出血以外に粘液が出たり下痢や腹痛などの症状が並行して出てくる。クローン病の場合、難治性の切れ痔や痔瘻を生じることもしばしばある。この2つの病気が疑われる場合は、直腸だけでなく大腸全体、さらに胃や小腸も検査して、それぞれの病気に特徴的な病変の有無を調べる必要がある。いずれも原因不明の消化管の炎症性疾患だが、よく効く薬もあり、早期に治療を始めるほど効果も期待できる。これまでヨーロッパやアメリカで多く見られ日本では症例が少ないとされていたが、昨今、増加の傾向にある。
③肛門周囲に皮膚炎がある→肛門周囲炎、真菌症、ヘルペス、尖圭コンジローマ、扁平コンジローマ
肛門周囲は常に雑菌も多く、構造上も皮膚炎を起こしやすいところだ。通常は便や粘液の皮膚に対する刺激によって生じる場合が多いのだが、カンジダなどの真菌(カビ)による場合もある。通常の皮膚炎の軟膏や抗真菌薬の軟膏などで治らない皮膚炎の場合、まれではあるがPaget病という悪性の疾患であるケースもある。自己判断をして市販の薬などで治療するのではなく、専門医に診察してもらう必要がある。
ヘルペスはウイルスの感染により肛門周囲にびらんができ、チクチクする痛みを感じる。抗ウイルス剤の軟膏が有効だ。
尖圭コンジローマは、パピローマウイルスの感染によって起こり、小さないぼがたくさんできたり、集まってカリフラワーのようになることがある。切除やレーザーなどによって焼いて治療する。
扁平コンジローマは、肛門周囲の扁平な隆起で、梅毒の一症状だ。この症状が出るころには、梅毒はすでにいちばん人に感染しやすい二期に入っており、注意が必要。梅毒は放っておいたり、治療を途中でやめたりすると、のちに神経系統に異常が出る変性梅毒となって再発するので、甘くみてはいけない。
④膿のかたまりを形成する→膿皮症、粉瘤、毛巣瘻
膿皮症は、お尻の周囲の汗腺が化膿して、膿がたまる疾患。しょちゅう化膿したり、治ってもすぐ再発する場合は、その汗腺を含む皮膚を切除しなければならない場合もある。
粉瘤は、毛穴に皮脂腺から生じた脂が溜まってしこりが生じたもので、これが化膿して膿が溜まる場合がある。
毛巣瘻は、尾骨の付近に膿瘍が生じ排膿を繰り返す疾患で、膿瘍は瘻管(トンネル)を形成し、その根本は仙骨の近くまで続いており、完治させるには膿瘍、瘻管を完全に切除しなければならない。
塩素系洗剤による自殺も苦しまずに死ねない | |
GLP-1 薬、うつ病にも効果あり | |
インド人介護スタッフの可能性 | |
松尾芭蕉の死因は旅の疲れ? | |
風邪薬「パブロン」でトリップする人たち | |
赤ちゃんの“怒り”は自我の目覚めのサイン | |
「座骨神経痛」という病名は存在しない | |
「休肝日」は何日が有効なの? | |
下痢止めには「正露丸」か「ストッパ」か? | |
胃がんで急逝した手塚治虫の最期の言葉は? |
前編『コロナだけじゃない。世界中で毎年新たに3億7000万人超の性感染症』
毎年世界中で3億7000万人超の感染者があると言われる性感染症。しかも増加の傾向にある。性感染症専門のクリニックとしてその予防、検査、治療に取り組む内田千秋院長にお話を伺った。
あおぞらクリニック新橋院院長。1967年、大阪市…
(医)スターセルアライアンス スタークリニック …
ジャーナリスト、一般社団法人日本サプリメント協会…