強い葛藤状況や心的外傷(例えば災害、事故、暴力、性的虐待、長期にわたる監禁、戦闘体験など)が発症のきっかけになります。つらい体験に圧倒されそれを認めて受け入れるのが困難な時、こころのダメージを守ろうとして脳の一部が機能を停止することがあります。その結果、記憶(とくにその時期の自分に関する記憶、自分は誰か、何をしたのか、誰と話したか、どこへ行ったかなど)や感覚、運動の働きなどがそこなわれてしまうのです。
国際疾病分類(ICD-10)によると、解離性障害のカテゴリーには次のようなものがリストアップされています。多くの症状は数週間ないし数ヶ月後には軽減していくものですが、解決不能な問題や対人関係上の困難と関連している場合慢性化することがあります。
・解離性健忘:ある心的なストレスをきっかけに出来事の記憶をなくすものです。多くは数日のうちに記憶がよみがえりますが、ときには長期に及ぶ場合もあります。
・解離性とん走:自分が誰だかわからなくなってしまい、失踪して新たな生活を始めるなどの症状を示します。それまでの自分についての記憶を失う一方で、基本的な自己管理(食事や保清など)や簡単な社会性(注文をする、道を尋ねるなど)は保たれているのが特徴です。
・解離性昏迷:光や音、接触などの外的な刺激に対する通常の反応が極端に乏しくなり、長時間ほとんど動かないという状態が見られます。
その他、心因性失声、解離性けいれん、多重人格障害などもこのカテゴリーに含まれます。
ストレス性の出来事や問題など明らかに発症と関連する心理的原因の証拠があって、症状に見合う身体的障害の根拠がないことが確定診断のためには必要になります。心理的な原因が強く疑われても、本人が否定することがあるので、ご家族や関係者の情報も大切です。もともと脳や末梢神経系の障害を持っている方の場合鑑別が困難になることがあります。
症状に応じて、MRやCT、脳波検査、血液生化学検査、心電図、内視鏡検査など必要なものを組み合わせて行います。薬やアルコールなどの影響がないか、てんかんや脳腫瘍、認知症、循環器疾患、その他の疾患によるものではないか調べる必要があります。
ご本人に安心してもらえる環境を提供することが第一選択です。そのためには家族や周囲の理解が必要です。疾病に関する十分な知識をもち、誠実に接することです。特効薬はありません。併存する抑うつ状態や強い不安症状に対して、抗うつ剤や抗不安薬を処方することがあります。
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