監修:高橋現一郎・東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授
目の構造はカメラにたとえられます。カメラのレンズにあたる部分が水晶体、フイルムにあたる部分が網膜です。白内障(しろそこひ)は、この水晶体がにごる病気です。このにごりは、水晶体を構成するたんぱく質が変性して生じるといわれています。
白内障の原因で最も多いのは、加齢による老人性白内障です。その他、先天性白内障、糖尿病に合併する糖尿病性白内障、アトピー性皮膚炎に合併するアトピー性白内障、ぶどう膜炎などによる併発白内障、放射線による放射線性白内障、ステロイドによるステロイド白内障、外傷が原因で起こる外傷性白内障などがあります。いずれの原因でも、一度にごった水晶体が再び透明になることはありません。
初期には、水晶体のにごりによって目がかすんだり、まぶしくなったり、物がだぶって見えたりします。進行すると視力が低下してきます。また、進行すると、水晶体の厚みが増し、近視が進み、今までの眼鏡が合わなくなることもあります。非常に進行してくると、外から見ても瞳孔(ひとみ)が白く見えます。
視力を検査し、細隙灯顕微鏡検査(眼科用顕微鏡での診察)で診断します。散瞳する(瞳を開く)目薬をつけて診察することにより、水晶体のにごりの状態がよくわかります。また、白内障が進行して眼底が見えない場合は、エコーの検査や網膜電位図(網膜の活動電位を調べる検査)などで眼底の病気がないか調べます。
白内障の治療法には、点眼、内服、手術があります。点眼と内服では白内障の進行を遅らせることはできますが、治すことはできません。
白内障による視力低下を改善するには、手術が必要になります。手術では、にごった水晶体を除去します。水晶体は眼の中でレンズの役割をしていますので、これを摘出した後は、水晶体に代わるレンズが必要になります。今は眼内レンズを挿入する方法が主流になっていますが、ほかにコンタクトレンズや眼鏡で矯正する方法があります。また、合併症があると、眼内レンズを挿入できない場合もあります。
術後の見え方については白内障以外の病気がなければ、良好な視力を得ることができます。また、手術後は、手術前にかけていた眼鏡が合わなくなることが多く、その場合は手術後落ち着いてから、眼鏡を換える必要があります。
手術の時期は、昔は視力が非常に悪くなってから(例えば視力0.1)手術することが勧められていましたが、最近では日常生活に不自由を感じるようになったら視力の数値に関係なく手術を勧めることが多くなってきました。例えば、人に挨拶されたが見えなくて失礼した、夜間の車の運転が怖くなった、ゴルフで自分が打ったボールが見えないなどが、手術を受けるきっかけになっていることが多いようです。手術の時期が早くなってきたのは、手術の方法が進歩し、手術の結果が良くなってきたことや、患者さんの負担が軽くなってきたためと思われます。
≪手術の種類≫
①超音波乳化吸引術
水晶体の構造はゆで卵に似ています。ゆで卵の殻に相当するのは水晶体嚢と呼ばれる薄い膜で、水晶体の表面を覆っています。白身は皮質、黄身は核に相当します。
手術では、まずしろ目(強膜)とくろ目(角膜)の境界に2〜3ミリの切開(強角膜切開)を入れ、超音波装置などの器具を入れるトンネルを作ります。次に水晶体嚢の前面を円形に穴を開け、にごった水晶体の核を超音波で細かく砕いて吸引し、さらに皮質を吸引します。卵の殻だけになった状態です。最後にこの殻に相当する水晶体嚢のなかに眼内レンズを挿入します。水晶体を細かく砕き吸引することにより、小さい強角膜切開で手術することができます。多くの場合は、強角膜切開は縫いません(無縫合手術)。
今はこの術式が主流になっていますが、強角膜切開が小さくなり、術後の安静が短期間で済むため、早期に社会復帰が可能とりました。また、入院しないで、日帰りで手術を受けることも可能になり、患者さんや家族の負担が軽くなりました。さらに、無縫合手術により、手術で作られる乱視が少なくなり、術後早期から良好な視力が得られる様になりました。
②嚢外(のうがい)摘出術
水晶体嚢の前面を切開したあと、その中のにごった水晶体を、砕かずにそのまま摘出し、残った水晶体嚢の中に、眼内レンズを挿入する方法です。20〜30年前はこの方法が主流でしたが、大きな強角膜切開が必要で、超音波乳化吸引術よりも術後の安静期間が長く、良好な視力が出るまでに時間がかかりました。現在でも、非常に白内障が進行すると水晶体核が固くなり、超音波では砕けないので、この方法を取ることがあります。超音波乳化吸引術で手術が行えるうちに手術を受けたほうがメリットは大きいと思われます。
③嚢内(のうない)摘出術
水晶体嚢ごと摘出する、つまりゆで卵全体を摘出する方法です。30〜40年前はこの方法が主流でした。この方法では水晶体嚢が残っていませんので、水晶体嚢内に眼内レンズを挿入することができません。この場合は、眼内レンズを眼の中に縫い付けたり、眼内レンズの代わりにコンタクトレンズや眼鏡で矯正したりします。
水晶体は眼内で、チン小帯と呼ばれる細い繊維で支えられています。最近では、このチン小帯が弱い場合など特殊な症例で、この方法で水晶体嚢ごと摘出します。
≪眼内レンズの種類≫
①形状
光学部と光学部を保持する支持部に分けられる。直径5.5〜7.0ミリ程度の正円形の光学部は屈折に関係し、支持部は光学部を水晶体嚢に固定する役目を担っている。
②材質
材質は様々あり、以前はPMMA(ポリメチルメタクリレート)と言う硬い素材が主流でしたが、近年ではアクリル樹脂やシリコン樹脂などの柔らかい素材が主流です。柔らかい素材の眼内レンズは、折りたたむことが出来るため、強角膜切開の幅を小さくすることに大きく貢献しています。
③単焦点と多焦点
単焦点と多焦点の眼内レンズがああります。単焦点眼内レンズを用いた場合は、医療保険が適応されますが、多焦点眼内レンズの場合は、現在は自費になります。単焦点眼内レンズでもピンポイントに一か所にだけピントが合うわけではなく、ある程度の幅はピントが合うので、多くの人は困ることはないようです。ただし、老眼鏡や運転用眼鏡など微調整用の眼鏡は必要になることがあります。乱視矯正のためのトーリックレンズや非球面眼内レンズも国内で実用化されている。
④色
以前はほとんどが透明な眼内レンズでした。近年、短波長の青色光による網膜障害を抑制するために黄色く着色された眼内レンズ(着色眼内レンズ)が普及しています。着色眼内レンズの使用により、短波長に弱い黄斑部を保護することで加齢黄斑変性の予防効果が期待されています。
⑤眼内レンズの度数
眼内レンズにも眼鏡やコンタクトレンズと同様に度数(近視や遠視の強さ)があります。挿入する眼内レンズの度数により、術後の屈折値が決まります。希望する屈折値でなかったり、左右で大きく屈折値が違ったりする場合は、術後に不満を感じる原因にもなります。一般的には、術前近視が無い人は遠方あわせに、近視だった人は近方あわせにすることが多いようです。強度の近視の場合には、軽度の近視にあわせることもあります。片眼のみしか手術をしない場合には、手術を行わない方の眼の屈折値に合わせる場合が多いようです。また、術前に近視が強い人でも眼鏡で矯正していた場合とコンタクトレンズで矯正していた場合では、術後の屈折値の希望が違うことがあります。眼鏡で矯正していた場合は近方あわせ、コンタクトレンズで矯正していた場合は遠方あわせを希望することが多いようです。
白内障の手術を受ける方の年齢層は広がってきており、また仕事や趣味など生活のスタイルは一通りではなく多用化しているので、術後にどのような屈折値を希望するか、よく担当医と相談して、納得してから手術に臨むべきです。
≪術中・術後合併症≫
①後嚢破損
白内障手術の大きな目的のひとつは、水晶体嚢の中に眼内レンズを挿入することです。この水晶体嚢はとても薄いため、手術中に破損することがあります。後方の水晶体嚢のことを後嚢と呼びますが、多くはここが破損するため後嚢破損と呼ばれています。後嚢破損が生じると、水晶体核が硝子体へ落下したり硝子体が眼外に脱出(硝子体脱出)したりします。後嚢破損が生じても、通常は適切な処置を施すことにより、その場で眼内レンズを埋め込むことが可能です。しかし、難症例の場合は、眼内レンズを埋め込むことができない場合があります。
②術後眼内炎
手術の創から細菌や真菌が侵入して発症するものです。手術直後から発症する場合と数ヶ月から数年を経てから発症するものまで様々です。発生頻度としてはまれですが、菌の毒力が強い場合や発見が遅れた場合などは、最終的な視力予後が不良になることもあります。特に手術直後の1週間は、感染を起こしやすい時期ですので、洗顔・洗髪などでは眼に水を入れないなど衛生面での注意が必要です。
③後発白内障
手術後数ヶ月から数年で後嚢がにごってくることがあります。これを後発白内障といいます。後発白内障が発生すると、多くの場合、視力が低下します。治療は特殊なレーザー(ヤグレーザー)を用いて濁りを取り除きます。レーザーを行った直後より視力の回復が得られます。
進行を遅らせるためには、点眼薬や内服薬を用います。糖尿病性白内障やアトピー性白内障など併発白内障の場合は、原因疾患をコントロールすることで、白内障の進行をある程度は抑制することが可能です。
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