監修:高橋伸明/福岡記念クリニック院長・脳神経外科医
:鈴木龍太・鶴巻温泉病院 院長/脳神経外科医
脳腫瘍とは、頭蓋内に発生するすべての腫瘍の総称です。その場所に生じた原発性脳腫瘍(82.1%)と、身体の他の部位のがんが転移した転移性脳腫瘍(17.9%)に分けられます。原発性脳腫瘍は、脳そのものから発生する脳実質内腫瘍と、脳を包む膜や脳神経・下垂体などから発生する脳実質外腫瘍に分けられます。原発性脳腫瘍は、人口10万人つき年間10〜12人の割合で発生するといわれ、全国で年間約10000件の手術が行われています。
腫瘍とは、細胞の遺伝子が変化し、細胞が自律的にどんどん増殖してしまうようになった新生細胞群と、それを支持する組織からなるものを言います。がんに代表される悪性腫瘍は、宿主が生きている限り増大し、他の組織へ浸潤していきます。良性のものは脂肪の固まりの脂肪腫のように増殖能がとても低く、一定の大きさになると成長が止まるものもあります。
しかし、脳腫瘍の場合は、その腫瘍の増殖能が問題になるだけでなく、良性の腫瘍でもできた場所によって重大な症状を起こします。また、脳は固い頭蓋骨に囲まれているため、頭蓋骨の中の体積が限定されています。このことから、良性の腫瘍であっても、ある程度の大きさになると頭蓋骨の中の圧が高くなり、生命をおびやかすことがあります(頭蓋内圧亢進)。このような理由から脳腫瘍の場合は、悪性・良性は細胞の増殖能だけで一概に論ずることができません。
脳組織自体にできる腫瘍は、神経膠腫(グリオーマ)と呼ばれる脳腫瘍や悪性リンパ腫などがあります。脳組織以外にできる腫瘍は、脳を包んでいる髄膜にできる髄膜腫や、脳から出る細い神経にできる神経鞘腫、脳の下方にぶら下がっていていろいろなホルモンを分泌している下垂体にできる下垂体腺腫などが主なものです。
脳腫瘍は、それぞれ治療法が違います。脳腫瘍は全部で数十種類あり、さらに1つの腫瘍が細かく分類されていので、ここで全部を挙げることはできません。ここに挙げた腫瘍で、脳腫瘍全体の80%程度になります。
脳腫瘍は、ゆっくり大きくなったり、脳の中を広がるように進行するので、急に症状が出ることはほとんどありません。しかし、症状はだんだんはっきりしてきます。脳腫瘍の30%程度は、痙攣が最初の症状です。痙攣とは、一過性に意識がなくなって倒れ手足がガクガクしたり、話しをしていて急にうわのそらになって口をモグモグ動かすような動作をしたりするものです。どちらにしろ一過性ですっかり元に戻るので、繰り返さないと病院に行かないで済ましてしまい、病院で診断された時にはすでに脳腫瘍が大きくなり過ぎているということも良くあることです。
初期の脳腫瘍では、痙攣発作以外は、頭痛やなんかボーッとして性格が変ったというような曖昧な症状しかない場合がほとんどです。進行してくると、局所神経症状として片麻痺(片方の手足の力が抜けること)・片方の手足の感覚障害・視野障害(目の見える範囲が狭まる)・視力障害・言語障害などの症状が起こります。急な激しい頭痛や急に手足が動かなくなる場合は一般に脳卒中が多いのですが、脳腫瘍の場合は腫瘍の中に出血した場合にそのような症状になります。
しかし、脳腫瘍がある程度以上大きくなると、周りの脳も脹れ始めて(脳浮腫)頭蓋骨内圧亢進状態となり、頭痛・嘔吐・意識障害を起こしてきます。このような場合は、早急な手当てが必要です。また、頭蓋骨の中は髄液という透明な液があり、その中に脳が浮いています。脳の中心部にも髄液が溜まっている脳室という部分があり、脳腫瘍が脳室の髄液の流れを塞ぐように成長すると、髄液の逃げ場がなくなって髄液が脳室の中に溜まり、脳室が大きくなる水頭症という病気を引き起こします。これは子供や若い人の脳腫瘍で多く見られるものです。この場合は、頭痛とともに嘔吐を伴ってきます。早いうちに対処しないと重大な結果になることがあります。
いままで書きましたように、脳腫瘍の症状は最初は比較的分かりにくいものです。頭蓋内圧亢進や水頭症で強い頭痛・嘔吐・意識障害が起これば必ず病院へ行くことになると思いますが、そうでない場合は意外と気づかないものです。脳腫瘍の最初の症状として痙攣が多いことを書きましたが、成人になって始めて起こる痙攣は脳に何らかの病気(脳腫瘍・脳動静脈奇形・脳梗塞・脳の外傷)がある場合が多く、必ず脳の検査を受けてください。
脳腫瘍の診断は、症状がはっきりしている場合は別ですが、結局、脳のCTやMRI(核磁気共鳴装置)検査をしないと分かりません。自動車を運転していて交通事故を起こし、頭部外傷でCT検査をしたら偶然に脳腫瘍があることが分かり、調べると視野の左側が見えていなくて(半盲)、それで事故を起こしたのだと分かった例もあります。
検査が簡単にできるので、脳神経外科の外来では頭痛で来られる方にも、ほとんどはCTやMRI検査をすることになります。しかし、実際には脳腫瘍が見つかることはほとんどありません。いろいろな病院で検査をして偶然見つかった場合に、紹介で見えることがほとんどです。
CTやMRIを行う場合、造影検査といって腫瘍をより分かりやすくするため造影剤を注射することがあります。造影剤を使わないで検査をした場合に、脳腫瘍と診断できずに脳梗塞と診断されてしまうこともあります。専門の病院では、脳腫瘍が疑わしい場合には必ず一度は造影剤を使用した検査を行います。脳腫瘍が分かり治療が必要な場合には、入院して脳血管造影や核医学的検査(SPECTと呼ばれるもの)を行って脳腫瘍の種別診断を行っていきます。こういった診断法は画像診断といいます。
しかし、腫瘍の良性や悪性度、細かい分類などは、結局、手術(頭蓋骨を大きく開ける開頭術と小さな穴から少量の腫瘍を取る生検とがあります)をして病理標本を作ってみないと分かりません。
脳腫瘍の治療法は、その腫瘍の種類によってかなり違います。それぞれの腫瘍については各論を見てください。
頭蓋内圧亢進がきているような大きな腫瘍は、基本的には開頭手術で脳腫瘍を取り除く手術が必要です。水頭症がある場合には、髄液を外へ出す手術を緊急で行ってから、その後の治療法を決めることもあります。神経膠腫などの脳実質にできる脳腫瘍は、手術だけで治すことはできないので、手術後に放射線治療や抗がん剤を使った化学療法を行うことがあります。
髄膜腫や神経鞘腫のように良性の腫瘍は、手術で大部分を取り除ければ再発する率は10%前後です。しかし、脳腫瘍の場所によっては手術が困難な場所も多く、手術で完全に治せるものは3分の2ぐらいになると考えられます。
小さな髄膜腫や神経鞘腫は、ガンマナイフ治療(現在日本で53施設)と言って放射線のビームを脳腫瘍に集中的にあてる方法で治療することができます。1〜2泊の入院で患者さんの負担も少ない方法です。この場、合脳腫瘍はすぐになくなりませんが、90%程度で脳腫瘍の成長が止まります。
腫瘍細胞は、正常な細胞の遺伝子が病的に変化したものです。遺伝子変化には、なにかきっかけがあるはずですが、脳腫瘍に関しては今のところ分かっていることはほとんどありません。また、脳腫瘍は生活習慣とはほとんど関係ないので、予防することはできません。稀ですが、ある種の脳腫瘍は遺伝性があります。皮膚や目に特徴的な症状がある場合が多いのですが、遺伝形式は常染色体優性遺伝で、両親のうち1人が患者であれば子供の2人に1人が病気の遺伝子を持つことになります。良性の脳腫瘍はガンマナイフ治療などの治療法があるので、小さいうちに見つかった方が治療効果も高く、患者さんの負担も少ないと言えます。
塩素系洗剤による自殺も苦しまずに死ねない | |
GLP-1 薬、うつ病にも効果あり | |
インド人介護スタッフの可能性 | |
松尾芭蕉の死因は旅の疲れ? | |
風邪薬「パブロン」でトリップする人たち | |
正露丸の主成分は解毒剤がない劇薬!? | |
世界一の長寿者は256歳だった! | |
下痢止めには「正露丸」か「ストッパ」か? | |
赤ちゃんの“怒り”は自我の目覚めのサイン | |
「座骨神経痛」という病名は存在しない |
前編『コロナだけじゃない。世界中で毎年新たに3億7000万人超の性感染症』
毎年世界中で3億7000万人超の感染者があると言われる性感染症。しかも増加の傾向にある。性感染症専門のクリニックとしてその予防、検査、治療に取り組む内田千秋院長にお話を伺った。
あおぞらクリニック新橋院院長。1967年、大阪市…
(医)スターセルアライアンス スタークリニック …
ジャーナリスト、一般社団法人日本サプリメント協会…