世界的に増加する性感染症の実態 前編 あおぞらクリニック新橋院内田千秋院長

コロナだけじゃない。世界中で毎年新たに3億7000万人超の性感染症

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梅毒の増加はインバウンドの増加が原因ではない!?

「検査しないとおしおきよ!!」。2016年、厚生労働省は美少女戦士セーラームーンとコラボレーションしたポスターで急増する梅毒などの性感染症に対する注意を呼び掛けた。
「50年ぐらい前に大流行した梅毒はペニシリンがよく効くため、いったん感染者数が落ちましたが、この20年で急増してきました。2010年621人だった感染者は2018年7001人の11.2倍になっています。統計上ではインバウンドの増加と梅毒の増加に相関性があるように見えていますから、医師たちもインバウンドの増加が主な原因と考えていたのです。ところが、最近、国内で増加している梅毒の菌株を調べた研究によると、かつて日本人が盛んに中国や東南アジアなどに渡航していた時に現地で流行していた菌株と分かったようです。インバウンド犯人説がだいぶ怪しくなってきました。日本人が海外から持ち込んだ可能性もあるようです」と梅毒急増の背景について新たな視点を指摘する。

「もう一つ 世界的にみて感染者の多いクラミジアも目立ちます。とくに若年層の感染者が多く、5人に4人までが自覚症状がないという報告があります。感染部位は男性の場合は尿道や肛門、女性の場合は膣、また男女共通としてのどへの感染もあります。自覚症状がないままクラミジアの感染を放置すると精巣上体炎や骨盤内炎症疾患などをおこし不妊の原因をつくります。やはり早めの検査を心がけたい病気の代表格です」と注意を呼び掛ける。

性感染症でも耐性菌の出現が問題に

 新型コロナウイルスの感染拡大で話題となっている多数の変異体の存在。性感染症の世界でもそうした問題が起きている。

「性感染症の中で特に注意しておきたいのは、治療薬が効かない『スーパー淋病』です。以前は淋病は抗菌薬の点滴1回で100%治ると言われ、これまで再検査は不要だとされていました。しかし今まで効果のあった複数の抗菌薬に対して淋菌が抵抗力を持ちだしたことで淋病の治療が近い将来では非常に難しくなることを示しています。頻度は低いものの、他の性感染症でも薬剤耐性菌の存在が報告されていますから、性感染症の分野でも予防と早期治療がますます重要となっています」と内田院長。

 性感染症は感染しても無症状であることが多く、自覚症状がある場合でも医療機関の受診をためらうことが多い疾患。性感染症はいまだ偏見を持たれやすく秘匿しようとする傾向が強い。しかし、感染の実態を知らずに放置すればもちろん重篤な症状を引き起こすケースがある。生殖年齢で女性が罹患した場合には、母子感染による次世代への感染継続もあり得るのだ。
 次回は性感染症の検査や治療方法について具体的な話を伺う。(続)

※性感染症について詳しく知りたい
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/index.html
公益財団法人性の健康医学財団
https://www.jfshm.org/
政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201712/3.html

性感染症の自宅検査に興味がある

内田千秋(うちだ・ちあき)

あおぞらクリニック新橋院院長。1967年、大阪市生まれ。96年、東京医科歯科大学を卒業し、同大第二外科入局。癌研究会附属病院、東京都立墨東病院、東京都多摩がん検診センターなどに勤務後、2013年、「あおぞらクリニック」を開業し院長。日本性感染症学会会員、日本エイズ学会会員、日本性機能学会会員、日本抗加齢学会専門医ほか。趣味は「猫」(フェイスブック「ネコっていいね!倶楽部」主宰)。

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