米国では手術を受ける患者数が4倍に
米国では日本よりも一歩早く、性別適合手術の保険適用が進んでいる。特にオバマ政権時代に実施された医療制度改革法(通称オバマケア)がトランスジェンダーに対する差別を禁止したことが契機となり、企業が従業員に提供する健康保険に性別適合手術を含めることを義務化する州も増えている。
最近、米ジョンズ・ホプキンズ大学放射線学のBrandyn Lau氏らが米国での性別適合手術の実施に関する研究結果を報告している(『JAMA Surgery』2月28日オンライン版)。
全米の入院患者のデータを分析した結果、2000~2014年に性別適合手術の実施件数が4倍近くに増加しているという。また、同期間に性転換症(トランスセクシャリズム)または性同一性障害と診断された3万7827人のうち4118人(10.9%)が、性別適合手術を受けていた。
また、2000~2005年には約50%の人が自費で手術を受けていたが、その割合は2006~2011年には65%まで増加。その後、2012~2014年には39%に減少し、残る61%で公的保険や民間保険が適用されていた。
また、これまでに性別適合手術による死亡例がないことも明らかになった。この点についてLau氏らは「性別適合手術は危険だという批判が正当ではない可能性を示唆した」と述べている。
また同氏は「トランスジェンダーの患者に関するデータがなければ、正しいことを行っているのか、また改善するためには何をすればよいのかを判断することができない」と研究の目的を語っている。
今後さらにデータの集積や検討が進むことで、性別適合手術の有効性や安全性の評価が定まっていくことが期待される。
現在、日本の法律では戸籍上の性別変更を行うための要件として「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」という項目が含まれている。
つまり、性別適合手術を受けなければ、戸籍上の性別変更はできないのだ。性別適合手術は、まさに人生を根底から変えるだけに、有効性や安全性についてはさらなる検証が必要だ。
(文=編集部)