小田原市「生活保護なめんな」事件の背景とは? 総額約3兆7000億円のうち不正受給は0.47%

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不正受給の実態は? 不正受給の約173億円は総額の0.47%

 不正受給の実態はどうか?

 不正受給とは、福祉事務所への収入の申告や、資産の有無などの虚偽の申告をすることだ。悪質な場合は、詐欺罪などに問われ、不正に受給した金額は返還しなければならない。虚偽の申告をすれば不正受給、収入や資産があるのに、保護を利用すれば費用返還になる。

 2011年度の不正受給の総額は約173億円(総務省「生活保護に関する実態調査」平成26年8月)。生活保護費約3兆7000億円に占める割合は0.47%に過ぎない。不正受給の内容は、稼働収入の無申告46.9%、稼働収入の過少申告10.6%、年金の無申告20.8%、保護開始月の不正受給11.4%となっている。

 また、不正受給が発覚したきっかけは、担当職員による関係機関への照会・調査が88.9%、通報・投書が5.6%。稼働収入が発覚したきっかけは、担当職員による課税調査、年金調査が最も多い。

 つまり不正受給は、担当職員が調査・照会すれば、ほとんどが発見できるのだ。

生活保護の担当職員やケースワーカーの激務の実態

 生活保護制度の課題は夥しい。受給者支援の司令塔となる生活保護の担当職員やケースワーカーの激務や業務の煩雑さによるストレスも大きい。受給者はさまざまなハンディや障害を抱えているからだ。

 たとえば、生活保護世帯の約半分を占める高齢世帯は、医療機関との連携や介護サービスの利用支援が必要だ。約3割の傷病・障害世帯は、医療機関との連携や障害福祉サービス機関との調整が求められる。約6~8%の母子世帯は、子どもへの総合的な支援も生じる。16~18%のその他世帯(働ける年齢層)は、就労支援を懇切丁寧に行わなければならない。

 このように担当職員やケースワーカーは、金銭の給付から各関係機関への調整まで包括的な重責を担い、受給者の生殺与奪の権利を握っている。

 なぜ激務に陥るのだろう? 高齢世帯、傷病・障害世帯、母子家庭、就労支援世帯への支援を担当するケースワーカーは、1人当たり80世帯を担当し、しかも、半年に一度の訪問が社会福祉法で義務づけられている。都市部では1人当たり120世帯以上のケースもある。ケースワーカーは、社会福祉法に基づく社会福祉主事の資格が必須だが、約26%が未取得だ。

人員の増加、社会福祉主事や社会福祉士の配置で、不正受給を防止して支援の質を高めよ

 打つべき対策はある。担当世帯数が標準レベルの80世帯になるように人員の増加を図りつつ、社会福祉主事や社会福祉士の配置によって専門性を高めれば、不正受給の防止、支援の質の向上につながる。

 生活支援の必要な人に手を差しのべ、自立への道筋を探る。それが生活保護制度の普遍のコンセプトだ。しかし、働かず怠けている人の甘えを許せない、税金で養われている恩を忘れているなどと冷淡な目を向ける、心ない偏見やバッシングも世間には根強くある。

 何ら後ろめたい事情がなく、やむにやまれぬ状況から、生活保護制度を利用しているのに、世間の誤解や偏見を恐れ、人に知られたくない、恥ずかしいなどのスティグマ(負の烙印)に苦しむ人も少なくない。

 不正受給の対策、生活保護行政について、NPO法人自立生活サポートセンターもやいの大西連理事長は、「生活保護なめんな」事件を契機に、ジャンパーのような「北風」でいくのか、より効果的な「太陽」でいくのか、さらに活発な議論が起きてほしいと話している。

 2014年の生活保護法の改正後、福祉事務所の現場は、援助ではなく監視・管理の雰囲気が強く漂うように変わったと指摘するケースワーカーもいる。

 だが、ジャンパーを着た担当職員の訪問が、いかに受給者の人権やプライバシーを踏みにじり、人道に反する行為かは言わずもがなだ。貧困格差がどんどん広がっている。受給者への生殺与奪を差配できる福祉行政であればこそ、公務員であればこそ、受給者の人権に配慮しつつ、ノブレス・オブリージュ(使命感に支えられた義務と責任)を果すべきではないか。

 たとえば、制度的な解決策だ。生活保護の国庫負担(現在75%)を増やし、自治体の負担を軽減する。生活保護に至る前のセーフテイネット(年金や住宅など)を充実する。担当世帯数を減らす。金銭給付とケースワークの業務を振り分ける。人権意識と専門性を高め、受給者の自立支援を強化する。ベーシックインカム(最低生活保障)の実現を模索する。できる課題から着手すれば、打開への道は少しずつ見えてくるはずだ。

 衣食足りて礼節を知る。国はビジョンと実行を、自治体はミッションと良識を、個人は健康と良心を! ちなみに、生活保護制度についてさらに知りたい人は、以下を参考にしてほしい。

 日本弁護士連合会のパンフレット(A版8ページ)「あなたも使える生活保護」(PDF)/NPO法人自立生活サポートセンターもやい「困った時に使える最後のセーフティネット活用ガイド」(PDF)/BIG ISSUE ONLINE/山吹書店 生活保護費(最低生活費)計算シート/ヨミドクター 原記者の「医療・福祉のツボ」貧困と生活保護/ダイヤモンドオンライン 生活保護のリアル みわよしこ/全国生活保護裁判連絡会ウェブサイトなど。
(文=編集部)

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