多発性骨髄腫とは、骨髄中に存在する形質細胞(プラズマ細胞)が異常に増殖する一種のガンです。形質細胞の増殖に伴いこの細胞が通常産生している血液中のイムノグロブリン(免疫抗体)が著しく増加し、貧血、循環不全、腎機能障害、感染症などを起こす病気です。
この病気にかかると、増殖する形質細胞のために、正常な血液細胞が骨髄中から駆逐され、白血球減少、貧血や血小板減少が認められるようになります。一方、形質細胞の産生するイムノグロブリンが血液中で高濃度となれば、血液が粘ばつき、循環不全を引き起こし、腎臓などに沈着して腎機能障害を起こすこともあります。
特異なイムノグロブリンの場合には、全身の組織にも沈着し「アミロイドージス(アミロイドというタンパク質がいろいろな臓器に沈着する病気)」とよばれる病気を併発することもあります。また、形質細胞には骨を溶かしてしまう因子が含まれているために、骨は著しく弱くなり骨折をきたすことがあり、そのために脊髄を圧迫、損傷して下半身の運動知覚障害をきたすケースもあります。一方、骨が溶け出すことにより、血液中のカルシウム量が増加し、意識障害を含むいろいろな症状が引き起こされることもあります。
多発性骨髄腫は腎臓障害のために透析が必要となったり、骨折したりして、初めて発見されるケースも稀ではありません。
多発性骨髄腫の診断は骨髄検査により行われます。また血液中に存在するイムノグロブリンを検討するために、免疫電気泳動という検査が行われます。尿中に排泄されるイムノグロブリンの一部を検討するために尿の免疫電気泳動検査も行われます。さらに、骨の病変をみるために全身の骨のエックス線検査も必要です。もちろん血算や各種の血液検査、腎機能の検査は欠かせませんし、血液中のカルシウム検査も不可欠です。
多発性骨髄腫は、貧血の程度やカルシウムの値、イムノグロブリンの濃度や腎機能の程度などによってその病期がいくつかに分けられます。また、病気の鑑別上重要な疾患に「MGUS(良性単クローン性免疫グロブリン血症)」があります。これは特定のイムノグロブリンが高値を示すものの、症状が現れず、多発性骨髄腫とは診断できないもので、多くは骨髄腫に進行せずに他の理由により一生を終わってしまいます。しかし、この病気の20%は最終的に多発性骨髄腫に移行するので、治療は必要ありませんが経過観察は怠れません。
多発性骨髄腫の治療の基本は化学療法にあります。最も広く用いられた治療法はMP療法といわれるものです。VAD療法が用いられるケースも多くなりました。
この疾患に造血細胞移植が広く行われつつあります。その前処置には抗ガン剤が使用されることが多く、場合により移植を繰り返すこともあります。
多発性骨髄腫の発症機序が不明であるため、その予防方法は知られていません。
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