肺は酸素を空気から取り込み、不要になった二酸化炭素を体外に排出する重要な働きをしています。口や鼻から吸われた空気は、のどに達し、一本の気管から左右の気管支に分かれ、その後約20回も枝分かれを繰り返し、最後はぶどうの房のような「肺胞」という直径0.1mm程の小さな袋に達します。この肺胞は約3億個あり、薄い壁を通して、血液の赤血球が運んでくる二酸化炭素を排出して空気中の酸素と入れ替えをしています。
肺結核とは、結核菌が原因の細菌感染症です。吸い込まれた1個から数個の結核菌が肺胞内に定着して、増殖を始めた状態を感染といいます。
感染は、発病している人の咳などによって吐き出されたシブキに含まれている結核菌が空気中を浮遊し、それをそばにいた人が吸い込むといった空気感染によって起こります。しかし、感染しただけで発病していなければ、人にうつすようなことはありません。また、結核菌は日光の紫外線に殺されてしまうので、食器など物を介してうつることもありません。
結核に対する「免疫」、つまり抵抗力ができあがると、人体のほうが結核菌よりも強くなるので、結核菌は抑え込まれてしまいます。結核菌が肺に侵入してから2~3ヶ月までにこのような免疫が成立します。抑え込まれた結核菌は、そのまま肺の中で冬眠状態に入るため、感染した人の約70%の人は一生発病せずに過しますが、感染した人の10~30%ぐらいの人は発病します。この10%~30%の人々は感染を受けてから1年程度、長い場合には何十年も経ってから、体力が弱って免疫力が下がった時発病します。
発病の初期は肺炎と同じように細胞浸潤を中心とした炎症性の変化ですが、これが進行するとその部分の肺組織は壊死を起こします。結核で壊死した組織はちょうどチーズのように見えるので「乾酪壊死」と呼ばれます。さらに病気が進むとその壊死した部分がとろけて気管支を通して排出され、そこにはぽっかりと穴が空きます。これが空洞です。そこには十分な湿気と空気、栄養があるので、結核菌はますます増殖します。そして肺の組織が破壊されて、呼吸困難や、他の臓器の機能が冒されるなどして生命の危機を招くことになります。
感染しても症状はほとんどなく、微熱が出る人もいますが、これらの変化は軽く、ちょっとした風邪のように思われ、たいていは気づかれません。発病初期は肺に軽い肺炎のような変化が起きますが、やはり風邪の症状に似ているので見過ごされることがほとんどです。普通の風邪と違うのは、微熱、咳とタンがいつまでも続くことです。このような症状が2週間以上続くときは、早めに医師の診察を受けてください。
●感染を調べる検査
○ツベルクリン反応検査
結核菌に感染すると、結核に対する免疫、つまり抵抗力ができます。ツベルクリン検査はこの免疫反応を診る検査です。結核菌が持っている特殊なたんぱく質を薄めて皮膚に注射します。
結核に感染した人では注射したところが免疫反応で、徐々に赤く腫れ、しこりが触れるようになり、2日目に最も強くなります。これがツベルクリン反応です。
結核菌に感染したことのない人ではほとんど反応はありません。一方、陽性の人にはBCGによる反応の場合と結核感染による場合があるので、結核患者さんとの接触やその他の状況によって感染の診断をします。
●発病の検査
○細菌学的検査
▶︎塗抹検査
タンなどをガラス板に塗って染色液で染め、顕微鏡で調べます。人に対して感染性のある患者さんの病巣には、菌が何千万、何億の単位で含まれているので、タンにも多量の菌が入っています。結核を疑った患者にはまず最初に行うべき検査で、結果が出るまでにかかる時間は2時間くらいです。ただしタンに含まれる菌の量が1mlあたり数千個以下の場合には塗抹検査では陰性に出ることが多いので、さらに精度の高い検査を行うことが必要です。
▶︎培養検査
培養検査は痰を培地に塗りつけて培養して増やし、結核菌の有無を調べる検査です。少ない菌でも見つかるので塗抹検査よりも優れています。しかし最終的な結果が判明するまでに最大8週間かかるのが欠点です。塗抹検査で菌が見つからず培養検査で見つかる程度の結核では、他人に対する感染の恐れは低いと言えます。培養して増えた菌では、どの治療薬が効くかを調べる薬剤感受性検査も行います。
▶︎核酸増幅法
最近の遺伝子工学の技術で結核菌の遺伝子を調べる法が確立され、培養検査に匹敵するようになりました。
○画像診断
▶︎X線撮影
咳やタンなど肺の病気が疑われる場合は第一に、一般的にレントゲンと言われる胸部X線撮影をします。胸部X線写真では結核の病巣が白く広がって見えます。
▶︎X線CT検査
胸部X線写真で影があり、かつ細菌学的検査で結核菌が発見できない時は、他の肺の病気と区別するためにX線CTの検査を行います。X線CTは肺を細かく輪切りに撮影する、精度が高い検査です。結核診断はこの様な検査から総合的に診断されます。そして、結核の進行具合も定期的な検査で判断されます。
○薬物治療
結核の治療は基本的には薬によって行い、外科的治療は特殊な場合だけ行われます。結核菌はしぶとい菌で、半年以上連続して薬で叩かないとぶり返します。何らかの理由で、薬を中断するような事があると、その間に結核菌が薬に慣れて、効果がなくなる薬剤耐性を持つことになるため、3~4種類以上の十分強い薬を組み合わせて、一気に治療するのが鉄則です。したがって、薬を飲んだり飲まなかったりすることは最悪であり、毎日忘れずに決められた量の薬を服用することが大切です。
結核の治療に使われる基本的な薬は、ヒドラジド、リファンピシン、ビラジナミド、ストレプトマイシン、エタンブトールの5種類です。この中でもヒドラジドとリファンピシンの2種類が治療の中心となる薬です。この2種類の薬が効く結核菌で、薬の副作用が起こらずに治療できた場合、この2種類を軸に最初4剤、続いて2~3剤を合計6ヶ月使うと6~9ヶ月で治ります。
しかし、薬が効かない耐性菌がいると治療は難しくなります。薬剤耐性になった人の結核菌を感染した人は、発病したときから耐性ですから治療はかなり厄介です。特にヒドラジドとリファンピシンがともに効かない「多剤耐性菌」は、初めて治療する人では1%以下ですが、治療歴のある人では10%以上に及びます。薬が効くかどうかは、培養検査で増やした結核菌に対して薬剤感受性検査を行うことによってわかります。結核の薬を使うと、発熱や発疹のようなアレルギー反応、胃腸障害(吐き気、食欲低下など)、肝機能障害などの副作用が起こることがあります。このような症状に気づいたらただちに主治医に相談をして適切な対処をする必要があります。自分の判断で薬を全部または一部止めたりするようなことは危険です。外来の方はまず電話をして医師の指示に従ってください。
肺の健康を守るためには、運動による心肺機能の強化、タバコを吸わないこと、外出後のうがい、そして大気汚染対策や粉塵対策などが大切です。結核は今なお最大の伝染病であり、発見や治療が遅れると、集団感染を引き起こす可能性も高くなります。早期に肺結核を発見するためには、定期健康診断を受けるようにし、咳やタンが2週間以上続いたら、早めに医師の診察を受けてください。
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