腸管の運動は、中枢神経と腸管を結ぶ自律神経(交感神経および副交感神経)と腸管自体に存在する神経線維によりコントロールされている。交感神経は腸管の運動や緊張を抑制し、副交感神経はその反対の作用を持つ。これらに障害が起きると、腸管の運動障害が起きる。
過敏性腸症候群(以前は過敏性大腸症候群と呼ばれていた)とは、がんや炎症性の疾患がないのに、腸管の機能的な過敏症により腹痛、下痢・便秘などの便通異常を来たす疾患群で、心理的あるいは社会的因子が多分に関与している場合がある。以前は過敏性大腸症候群と呼ばれていたが、最近では腸管の機能異常は大腸だけでなく、小腸も関与していることがわかってきたため、過敏性腸症候群と呼ばれている。
病型としては「下痢型」「便秘型」「下痢便秘交替型」「ガス症状優位型」に分けられるが、同じ人でも時期によって病型が変わることがある。
主な症状は、腹痛、便通異常、腹部膨満感などで、いずれも軽微なものからコントロールが困難なものまでさまざま。便通異常は、下痢型では軟便から水様便、回数も1日数回~数十回とかなり幅がある。しかし、いくら回数が増えても血液が混ざることはない。血液が混ざる場合は過敏性腸症候群ではないので早急に原因を調べる必要がある。便秘型では1回での排便の量が少なく、残便感が強く、時に兎糞状の便となる。ガス症状優位型では、腹部膨満感、腹鳴、放庇などの症状が主になりる。このような消化管症状に加え、頭痛、肩こり、めまい、動悸などのいわゆる不定愁訴といわれる多彩な身体症状や、抑うつ気分、不安感、焦燥感など精神的な症状を訴えることが多く、これらの症状が前面に出てくることもある。
直接この病気を診断できる検査はない。前項で書いた症状に加え、それらに似た症状を呈する他の疾患を除外することで診断する。除外しなければならない疾患としては、がん、炎症性腸疾患、感染症(細菌、寄生虫、原虫など)、甲状腺などの内分泌疾患、神経疾患、うつ病がある。注腸検査、大腸内視鏡検査、検便、血液検査などを行い徐外診断をする。
症状の完全消失を希望していると、いつまでも希望どおりにならず、焦りと苛立ちから治療自体に対する不信感が募り、うまくいかなくなることがある。大事なのは「この病気が生命に関しては全く問題がなく、治療の目標は症状をコントロールし、それとうまく付き合い、社会生活が可能な状態を保っていくことである」という点を理解することである。
治療法としてはライフスタイルの改善が一番であり、ストレス、アルコール、暴飲暴食、冷たい物など症状の誘因となるようなものを避ける。また、食事の時間や量をなるべく一定にし、規則正しい排便習慣をつける。
治療薬としては、消化管運動調節薬、抗コリン薬、便通異常に対し症状に応じ緩下剤、止痢剤、整腸剤などを使う。不安感や抑うつ気分など精神症状のある人には、抗不安薬、抗うつ薬などが有効なこともある。これら薬物療法に反応しない場合、心理療法が必要なこともある。
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