監修:西郷和真/近畿大学医学部附属病院講師・神経内科
:鈴木龍太・鶴巻温泉病院 院長/脳神経外科医
世界保健機構(WHO)ではてんかんを次のように定義しています。「てんかんとは様々な原因で起きる慢性の脳疾患で、その特徴は脳ニューロン(神経細胞)の過度の放電に由来する反復性発作であり、多種多様な臨床症状と検査所見を伴う」。つまりてんかんとは脳の神経細胞が病的に興奮してしまい、いわゆるけいれん発作といわれる異常な筋肉の動きや、意識状態の変化を起こすもので、しかもそれは繰り返し起こる慢性的な状態であるということです。通常のCTやMRIの検査では異常がなくても良いのですが、発作時は脳波で異常な波が見られます。
てんかん患者は日本で100万人程度います。人口1000人に対し4〜9人(人口の0.4〜0.9%)とされており、一般人口の100人から200人に一人が罹患していることになります。一生のうち1回でもけいれん発作を起こしたことのある人は人口の10%といわれますが、そのうちの10人に1人が繰り返しけいれんを起こし、てんかんと診断されます。
大きく2つに分かれます。左右の大脳半球の全体が電気的興奮する全般発作と、大脳の一部が興奮する部分発作です。この部分発作には最初は一部分の脳の興奮が最終的には脳全体へ広がり、全般発作に移行するもの(意識障害)ものも含まれます。実際の症状では、突然倒れて、意識をなくし、手足を突っ張ったり(強直性発作)、手足ががたがたする(間代性発作)ものが多く、その場合顔と目が同じ側へ向いて真っ直ぐにできません。片方の手や足がピクピクして段々全身に広がっていくジャクソン発作も見られます。
部分発作の典型的なものは、話しや仕事をしている時に急にボーッとして何もしなくなり、一点を凝視したり、口をモグモグさせたりします。発作の前触れとして変な匂いを感じたり、デジャビュー(既視感)と言って以前に同じ物を見たと感じたりする特徴的な症状が起こります。
大脳の側頭葉に病巣を持つ場合が多く、その場合は、側頭葉てんかんといいます。このような発作の大部分は数十秒から数分で終わり、元の元気な状態に戻ります。発作の型はいつも同じで、時に全般発作へ移行します。このようなてんかんは10歳から30歳の間に始まります。30歳以降に始まるてんかんは頭部外傷以外は脳腫瘍や脳血管障害を疑います。
一方乳幼児にもてんかんが起こります。最も多いものは熱性けいれんで、6ヶ月から7歳までの間に高熱を発した時に全身けいれんが起こる時があります。これは成長するとなくなり、心配することはありませんし、常時抗けいれん剤を飲む必要はありません。しかし高熱の際に繰り返すようであれば、熱が出た時に抗けいれん剤の坐薬(ダイアップ坐薬)を使用した方がいいでしょう。
欠伸発作と言って4〜8歳で始まる短時間意識が消失する発作があります。脳波で正確に3サイクルの異常波が認められます。典型的なものは20歳頃に消失します。欠伸発作に加えて強直性や間代性発作、ミオクローヌスといって手足がピクピクする発作を伴うものがありますが、この場合は発育の遅れが出ることがあります。生後4〜9ヶ月で始まる点頭てんかんと言う病気があります。四肢体躯全体を曲げるようにピクピクさせます。脳波でも特徴的な乱れた脳波が記録できます。この場合はACTHというホルモン薬が発作を抑えます。しかしこの病気は発育遅延を伴い予後は良くありません。
始めて病院に来た時、医療者は十分な情報(病歴)を収集します。発作の現場を見た人がいれば詳細な情報を記録しておいて下さい。その時の病歴から、必要と判断すれば、脳のCTかMRIを行います。CTよりMRIの方が、詳細な診断には有用ですが、コストと時間の問題でどちらを選択するか決まります。この検査で脳腫瘍、脳血管障害、脳動静脈奇形、外傷などがはっきりすればそれらの病気が原因の症候性てんかんと診断します。こういった画像検査で異常が見られない場合や、先天的な問題がある場合でも、脳波検査や、採血検査などから、てんかんと診断されることがあります。
一度の脳波検査で異常がなくても、てんかんを否定できません。また発作のない時にも脳波の波がおそかったり、睡眠や呼吸を早くする過呼吸、早いサイクルで点滅するフラッシュを当てると発作波が誘発されることがあり、診断に役立ちます。
以前テレビの漫画番組を一生懸命見ていた子供達がけいれん発作を起こしたことがありますが、これは点滅するフラッシュによるけいれんの誘発と同じ減少が起こったものと考えられます。てんかんの子供にはチカチカ光るようなテレビゲームを長時間やることや、暗い所でのスマートフォンの使用はお勧めできません。
てんかんは精神神経科、脳神経外科、神経内科、小児科、救急車で搬送される場合は救命救急科などで扱いますが、そのような医師の中でも専門的な知識が必要となります。
強直性発作や間代性発作が起こっている時はジアゼパム(セルシン、ホリゾン)を静脈注射します。これでかなりの発作は止めることができますが、時には繰り返し起こることもあります。このような場合は一時的に眠らせてしまう方法を取らざるを得ない場合もあります。その後抗けいれん薬を投与します。抗けいれん薬には多くの種類があり、発作の型により、効きやすいものが決まっています。良く使われるものはフェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)、バルプロ酸(デパケン、ハイセレニン)、カルバマゼピン(テグレトール)、フェノバルビタール(フェノバール)、ゾニサミド(エクセグラン)、クロバザム(マイスタン)などがあります。点頭てんかんにはACTHの注射、欠伸発作の第一選択はエトスクシミド(ザロンチン)です。以前はヒダントールFといっていくつかの種類の薬を混ぜたものが一番良く使われていましたが、最近では一つの薬を試して、効かなければ別の薬を選び、それでもだめならいくつかの薬を混ぜて使用します。抗けいれん剤は1ヶ月ぐらい飲んでいると身体に赤い細かい発疹がでたり、肝臓や血液に影響がでて合わない人がいます。その場合も薬を変えていかなければなりません。薬剤の使用については、専門的な知識が必要ですので主治医と十分相談の上、内服薬を決めることが重要です。
てんかんの患者さんにお願いしたいのは自分が飲んでいる薬と量を書いた紙を持っておいて欲しいと言うことです。てんかんはどこで起こるかわからないので、起こった時によく救急車で近くの病院に搬送されます。そのような時に普段飲んでいる薬がわかるととても助かります。
抗けいれん薬をどんなに使っても月に一回以上の発作が起こってしまうものを難治性てんかんと言います。てんかんの10%程度は難治性と考えられています。頻繁に発作が起こる場合は仕事や生活がうまく行かなくなり、QOL(生活の質)を著しく障害します。このような場合はてんかんの焦点となる部分(大部分は側頭葉)を切除する手術や神経細胞の興奮が伝わる経路を遮断する手術を行う場合があります。手術をすると70%程度の難治性てんかんで発作がなくなるか、稀になります。手術をする場合は前もって電極を脳に植え込む手術や、病室での発作の様子をビデオでずっと観察する検査などを行います。
症候性の場合は原因の治療をしますが、通常原因が分からないことが多く、予防することはなかなかできません。しかし発作の回数が多ければ多いほど脳に障害が出てきますから、発作を減らすことが大切です。まずキチッと薬を飲むことです。また人によって発作が起こりやすい状況が分かることがありますから、それを避けることが大切です。飲酒や興奮、旅行などが誘発原因となります。先に延べたチカチカする光もよくありません。薬の血液中の濃度を変化させるものに便秘や高熱などがあり、体調を調えることも必要です。
抗けいれん剤を飲んでいる女性の場合に問題になるのは妊娠です。抗けいれん剤を飲んでいて妊娠した場合先天奇形の発生頻度が通常の2〜3倍になります。通常は5%程度の奇形出生率ですが、抗けいれん剤を飲んでいる場合は10%前後という統計があります。口唇裂、口蓋裂、心奇形が多いと言われています。バルプロ酸では二分脊椎といって背骨が閉じないで、脊髄が背中に袋状に出てしまう奇形が起こりやすいといわれています。ですから妊娠の可能性がある女性では抗けいれん薬を中止することが望ましいわけです。しかし妊娠中に全身に及ぶようなけいれんが起こると胎児の酸素欠乏により、胎児に悪影響がでますから、簡単に薬は切れません。どういった選択をするかは難しい問題ですし、医師と家族で相談して決めなければなりませんが、薬を飲みながら無事出産した例はたくさんあります。
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