監修:高橋現一郎・東京慈恵会医科大学眼科学講座准教授
加齢黄斑変性は、加齢が原因で物を見る中心部に障害が生じる眼の病気です。この病気は、欧米では成人の主要な失明原因ですが、日本では最近少しずつ増えてきています。
眼球の構造
黄斑という物を見る中心部に障害が生じるため、物が歪んで見えたり、視力が低下したりするので、日常生活に障害をきたします。喫煙や肥満、光刺激、活性酵素の増加などが発症リスクを高めるとされていますが、詳しいことはまだよくわかっていません。現在行われている治療法は、視力低下の抑制効果は報告されていますが、まだ完治させる治療法はありません。
◯加齢黄斑変性の種類
滲出型と萎縮型があります。
滲出型加齢黄斑変性(提供:慈恵医大・酒井勉先生)
①滲出型加齢黄斑変性
日本人に多いタイプです。網膜の外側にある脈絡膜から新生血管が網膜に伸びてきます。新生血管はもろいので出血したり血液中の水分が漏れでたりします。その結果、黄斑部は障害され、物が見づらくなります。このタイプは急速に進行するとされています。
②萎縮型加齢黄斑変性
網膜が加齢により変性し、萎縮していくタイプです。進行は緩徐ですが、現在は治療法が見つかっていません。
萎縮型加齢黄斑変性(提供:慈恵医大・酒井勉先生)
眼はカメラに構造が似ており、フィルムに相当し映像が写る場所を網膜と言います。その網膜の中心部の直径約2mmを黄斑部と呼び、見たいところを見たり、読みたい物を読んだりする、つまり物を見る中心部になります。加齢黄斑変性は、その黄斑部に病気があるので、「物が歪んで見える」、「見たいところが暗く見える、かすんで見える」などの症状が見られます。症状は進行していくので、視力が低下しコンピュータが見づらい、新聞が読みにくい、車の運転が怖くなる、など仕事や日常生活に支障をきたします。
最初に問診を行ないます。いつからどんな症状があるのか、既往歴(過去にかかった病気)、家族歴(家族内に多い病気)、喫煙歴、現在治療中の眼や体の病気などを聞きます。その後で主に次のような眼科的な検査を行ないます。
①視力検査
黄斑部は物を見る中心部なので、病気があると視力が低下します。自分のメガネでは見づらくても、レンズを変えると見えることがあるので、レンズを変えながら最大どの程度まで見えるか測定します。
②眼底検査
専用の機器を用いて、網膜の状態を観察します。黄斑部や黄斑部の近くの病変の有無を肉眼で診ていく検査です。
③眼底造影検査
腕から造影剤を注射しながら眼底カメラで写真を撮ります。肉眼ではわかりにくい新生血管や新生血管の広がり、出血の有無などがわかります。
④眼底三次元画像解析
眼底三次元画像解析は、OCT(光干渉断層計)により、網膜の断層画像を撮影する検査です。この検査で、網膜の萎縮やむくみ、新生血管の状態を断層像として観察できます。近年、検査機器の開発が進み、診断のみならず、病態解明や治療効果の判定に必須の検査となってきました。
⑤アムスラーチャート・視野検査
物が歪む状態や見えにくい範囲を調べる検査です。
萎縮型の加齢黄斑変性では、残念ながら現在では有効な治療法はありません。滲出型加齢黄斑変性では主に次のような治療法があります。
①VEGF阻害薬
血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)は、血管がないところに新たに血管を作ったり、すでにある血管から分枝した新しい血管をつくったりすることに関与しています。滲出型加齢黄斑変性の発生には、このVEGFが関与しているとされ、VEGF阻害薬を硝子体(目の中)に注射することにより進行を遅らせたり改善させたりする効果が期待されます。現在このVEGF阻害薬硝子体注射が、滲出型加齢黄斑変性の治療の中心になっています。ただし、この治療は完治させる治療ではないので、検査を続けながら継続的に注射する必要があります。
②光線力学的療法(photodynamic therapy:PDT)
光感受性を持つ特殊な薬剤を腕から注射し、薬剤が新生血管に集積した時にレーザーを照射し、新生血管を消退させる治療です。この治療は、講習を受け試験に合格したPDT認定医のみが施行することができ、また特殊なレーザー装置が必要であるため、施行できる施設は限られています。
③レーザー光凝固治療
黄斑部の周りの新生血管を凝固する治療です。
④外科的治療
新生血管を取り除く新生血管抜去術や正常な網膜を黄斑部に移動させる中心窩移動術などがありますが、評価は定まっていません。
⑤再生治療
最近、加齢黄斑変性に対して、iPS細胞を使った網膜の移植手術が行われました。将来、有望な治療法と期待されますが、今は長期的に良好な結果が得られか見守る時期と言えます。
⑥その他
加齢黄斑変性の予防や進行抑制に効果があるとされるサプリメントなどが紹介されています。
明確な予防法はまだありませんが、下記のようなものが推奨されています。
①禁煙
喫煙は血液中にある酸化ストレスを抑える物質を破壊すると言われており、加齢黄斑変性の危険因子とされています。
②太陽光などの光刺激
太陽光の中でも特に青色光が黄斑の老化に関与していると言われています。屋外では、帽子・サングラス・日傘など使用すると良いでしょう。コンピュータや携帯電話、テレビゲームは、長時間続けないようにしましょう。
③食事・サプリメント
抗酸化ビタミン(ビタミンA、C、Eなど)、カロチノイド(ルティンなど)、抗酸化ミネラル(亜鉛など)などに予防効果があるとされています。これらを多く含む食品を食べたり、サプリメントを服用したりすることが予防に有効であるとの報告もあります。
ただし、アメリカでの研究では、サプリメントは、中等度あるいは片目の進行した加齢黄斑変性には有効ですが、軽症の場合は、まだ明確な予防結果は示されていないようです。つまり、すべての加齢黄斑変性において、サプリメントの効果があるとは言えないようです。また、有効成分は含まれていても、含有量が不十分な製品もあるとされており、注意が必要です。
加齢黄斑変性は、まだ広く知られていない病気であることや、症状があっても軽く考えていたり、年齢のせいにして放置したりして、進行してから眼科を受診する人が多いのが現状です。加齢黄斑変性の前段階として、眼底にドルーゼン(網膜内にある視細胞が産生する老廃物)や色素上皮細胞の変化という所見が見られることがあります。このような所見を見つけることで、早期発見・早期治療につながります。中高年の方は、是非1年に1回は眼底検査を受けてください。
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