「少しぐらい太っていても、別に具合の悪いところはないからかまわない」と思っている人も多いと思います。しかし、年齢が進むにつれ、糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病や胆石症、呼吸異常、膝関節痛などに苦しむ人が増えて行きます。また、肥満とともに死亡率も増加します。例えば、米国女性ではBMI(body mass index=体格指数)が27以上になると全死亡率が1.2~1.5倍、心臓病や血管の病気が2~4倍に増えると言われています。健康で長生きするためにも、無駄な出費(医療費、食費)をしないためにも、早い時期から肥満を改善することが勧められます。
肥満とは「体脂肪が普通の人より過剰に蓄積した状態」のことです。しかし現在のところ、正確かつ簡便な体脂肪量の測定法がないため、一般には身長に対して体重がどれだけ過剰であるかを、BMI(体格指数)を用いて判断しています。BMIは次の式で計算できます。
BMI=体重(キログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル)
この値が25以上の場合を肥満と判断し、値が大きくなるにつれて、肥満の程度が進みます。なお、体脂肪率では男性は20%以上、女性は30%以上の場合を肥満と判断しますが、測定法の精度に問題があるため、参考程度に考えておいてください。
肥満には、過食と運動不足が主な原因の「単純性肥満」とホルモンの異常や薬物などが原因の「二次性肥満」があります。日本人の肥満の95%以上が単純性肥満です。肥満以外に症状がない場合には、二次性肥満の可能性は低いと思われます。
肥満の診断は、前述のBMI(body mass index、体格指数)でします。この値が18.5未満の場合「やせ」、18.5以上25未満の場合「正常」、25以上の場合「肥満」と判定します。肥満には内臓脂肪型肥満(上半身に脂肪のつく「りんご型肥満」)と皮下脂肪型肥満(下半身に脂肪のつく「洋なし型肥満」)があります。このうち、内臓脂肪型肥満では生活習慣病になりやすく、より積極的な治療が必要なことが判ってきました。内臓脂肪型肥満の目安は、ウエストが男性で85cm以上、女性で90cm以上です。内臓脂肪の正確な判定のために、腹部CT検査が用いられることもあります。
肥満の合併症の検査として、血圧測定、尿検査、血液検査、胸部レントゲン写真、心電図検査などが行われます。狭心症が疑われる場合には運動負荷心電図を行い、胆石症の診断には腹部超音波検査が有用です。
①食事療法
減量の基本は、食事のカロリー制限です。人間の体重の増減は、摂取カロリーと消費カロリーの差によって、単純に決まっています。消費カロリーの60〜70%(40歳代男性で約1450kcal)は基礎代謝と呼ばれるもので、呼吸や心拍など生きていくために不可欠なエネルギーです。残りが歩行や仕事などの活動によるものです。運動で痩せようと考えて、これまでより運動量を増やしたつもりでも、30分の散歩で消費されるカロリーは80kcal程度であり、かなり運動したつもりでも全体の消費カロリーの増加はごく僅かです。
このように消費カロリーは、その人においてはほとんど一定であるため、摂取カロリーを減らして消費カロリーより少なくすることだけが唯一の減量法です。摂取カロリーが消費カロリーより7000kcalマイナスになると、体重が1kg減ります。例えば、1日の消費カロリーが2500kcalの人が、1日1800kcalの食事でがんばったとしたら、約10日で1kg体重が減ります。よく「食事制限をしても痩せない。水を飲んでも太る体質なのだ」と言う人がいますが、必ずどこかで食べています。どのような人でも、入院してきちんと食事療法をすれば、必ず痩せます。
実際の食事療法のやり方について説明します。まず、標準体重を計算してください。日本人では、前述のBMIが22の時に最も健康であることから「標準体重(kg)=身長(メートル)×身長(メートル)×22」としています。運動量が主婦や事務職程度の人では、1日の摂取カロリーを標準体重×25に制限します。肉体労働などかなり運動する人では、1日の摂取カロリーは標準体重×30が目安です。食品のカロリーについては、いろいろな本が出ていますので参考にしてください。この計算式で求められたカロリーでも体重が減らない場合には、さらに摂取カロリーを減らす必要があります。
カロリー計算をしないやり方としては、現在の食事の量をまず20〜30%減らしてみて、体重の推移を見ながら調整する方法もあります。急激な体重減少は、リバウンドを引き起こす危険があるため、月に1kgから3kg程度の減量が良いと思います。最終的な目標は標準体重ですが、高度の肥満の方は、まず現在の体重を10%減らすことを目標にしてはいかがでしょうか。
食品としては、脂肪分の多いものはカロリーが高いため、厳重な制限が必要です。また、調理法を工夫して、油の使用量を減らします。野菜には、ほとんどカロリーはありませんが、サラダドレッシングには脂肪分の多いものがあるので注意が必要です。ごはんは適量摂取すると満足感が得られ、かえって食べ過ぎを防ぐ効果があると言われており、むしろおかずを制限した方が良いようです。アルコールは、日本酒なら1日1合以下、ビールなら中ビン1本以下に制限します。間食では、チョコレート、スナック菓子、缶コーヒーなどは非常にカロリーが高いので、これらを控えることが効果的です。身の回りにおやつを置かない、夜食を取らないなど食習慣の改善が必要です。
これまでの長年の人類の歴史は飢餓との戦いの歴史であるとも言われ、人間は体重が減少しだすとそれに対する防御反応として食欲の増進が起こります。また身体がエネルギーを効率良く使うようになるため、減量のペースが鈍るのが一般的です。減量の必要性を強く自覚し、月に1〜3kgの減量ペースでゆっくりと長く食事療法を続けることが重要です。世の中には数多くのダイエット法がありますが、適切な食事療法を基本としていない極端なダイエット法は、健康を害する危険があり、また無駄な出費になるだけです。
②運動療法
食事療法のところで述べたように、運動のみで痩せるのは、ほとんど不可能です。従って、運動療法は食事療法の補助と考えてください。食事療法だけで運動をしないと、全身の筋力が低下してしまいます。運動を行って筋力の低下を防ぐことはとても重要です。また、運動により、太りにくい体質になります。運動としては、まずウォーキング(早足での歩行)やサイクリングを30分程度続けることが良いでしょう。短時間の運動では、脂肪は消費されません。膝の悪い人には、水泳や水中歩行が勧められます。ただし、心臓などの病気がある人は、必ず医師と相談してから行ってください。運動療法も食事療法と同様に、気長に続けることが重要です。
③薬物療法
現在、日本で使用されている薬剤としては、脳に作用して食欲を抑制する薬剤(マジンドール、商品名サノレックス)があります。しかし、この適応はBMIが35以上とされており、使用期間も3ヶ月までです。また、服薬を中止すると、体重は増加に転じることが多いと言われています。著明な肥満で、他の病気を合併していて早期に減量が必要な人は、薬剤の使用について医師と相談してみてください。
④手術療法
重症肥満に対する外科療法は、胃や小腸などに外科的操作を加えて食物摂取量を抑えたり、消化吸収機能を低下させたりする方法です。主に、アメリカで行われており、日本では特殊な場合にのみ施行されています。
現在、BMIが25未満だからといって安心はできません。年齢とともに基礎代謝は低下していき、必要なカロリー量は減っていきます。したがって、食事の量も年とともに少しずつ減らしていかなければいけません。また、内臓脂肪の多い場合は「隠れ肥満」ともよばれ、特に注意が必要です。
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