【病気の知識】

気管支喘息

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どんな病気

 気管支喘息とは、ある状態に気管支が過敏に反応し、その結果気管支が収縮(細くなる)して息を吐くことができにくくなってしまう病気です。この状態が喘息発作で、患者さんは強い呼吸困難を訴え、この病気に独特なゼーゼー、ヒューヒューという音(喘鳴)が聞かれます。

 しかし、適切な治療により、また、時には自然に発作が改善するのも大きな特徴です。ですから、喘息の患者さんは発作さえ起こさなければ全く健康な人と変わりがありません。つまり、一度、気管支が細くなって息を吐くことができなくなっても、また、元の状態に回復するわけです。この性質を気道閉塞の可逆性と言い、同様に気管支が細くなって呼吸困難になる肺気腫や慢性気管支炎と大きく異なる点です。

 気管支喘息は、子供から老人まで広い範囲で見られ、近年、著しい増加傾向を見せています。子供(15歳以下)の喘息のほとんどは、その原因にアレルギー(アトピー)が関与していますが、大人になるに従い非アトピーの割合が増えてきます。この病気の最も大きな特徴は、気道がある刺激(アレルギーなど)に対して過敏に反応することで、この性質を気道過敏性と呼びます。従って、気管支喘息の患者さんは全て、この気道過敏性と前述した気道可逆性を持っていることになります。

 最近、この気道過敏性を起こしてくるメカニズムが解明され、慢性の気道の炎症がその原因であることが突き止められました。従って、近年、その治療法が劇的に変化し、気道炎症を抑えることが主たる目的になっています。

どんな症状

 気管支喘息は、気管支が収縮して細くなった結果、息を吐きにくくなりますから、呼吸困難が主症状になります。しかし、気管支が細くなる程度に従って、単なる喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)から大発作までの呼吸困難が起こってきます。多くは咳と痰を伴っています。大発作が継続する状態を喘息の重積発作と呼び、適切な治療が行われないと致死的状態となります。

 喘息死のほとんどは、痰がつまることによる窒息死ですが、近年、増加傾向にあります。発作の程度は、元来、患者の自覚症状、つまり呼吸困難の程度によって判定されてきました。しかし、患者が感ずる自覚症状は、各個人によって異なっていますから、必ずしも本当の病状(気管支の収縮の程度)を表しているとは限りません。つまり、気管支が非常に細くなって、発作が実際には重症にもかかわらず、それほど強い呼吸困難を訴えなかったり、実際には程度が軽いのに非常に強い呼吸困難を訴える患者さんもいるわけです。

 そこで、その発作の程度を客観的に判定しようという試みがなされています。できるだけ努力して一定時間に息を吐き出す時に生じる流量は、気管支の半径に比例します。つまり、気管支が太ければ流量は増加し、気管支が細ければ流量は低下します。この流量をピークフロー(PF)とよび簡単な器具を使って容易に測定することができます。発作が起こって息苦しさを感じたら、このピークフローを測って、発作が起こっていないときの値と比較し、80%以下に落ちていたら、なんらかの治療を受けなくてはなりません。

 気管支喘息の治療は、この10年間に劇的に変化しています。最近では、気管支喘息に対するガイドラインが作成され、このガイドラインに沿って診断、治療を行うことが推薦されています。自覚症状は、もちろん重要ですが、PFのような客観的な指標を参考にして、症状を分析することも重要です。

どんな診断・検査

 気管支喘息の患者さんが発作を起こしている時の状態を見れば、診断はそう難しくありません。特有の喘鳴と呼気性の呼吸困難が見られ、聴診器で聞けば、独特のラ音が聴取され、PFを含めた肺機能検査をやれば気管支が収縮した状態を判定することができます(PFの低下、1秒率の低下)。また、発作を起こしている患者さんに、後述するような気管支拡張薬を吸入させると、症状やPFが改善し、喘息の特徴の一つである気道の可逆性が証明できます。

 しかし、患者さんが発作を起こしていない時は、検査上、何の異常もありません。この時、喘息の診断のために行われる検査が、もう一つの喘息の特徴である気道過敏性検査です。いわば喘息発作を誘発させる検査とも言えるでしょう。

 この検査で用いられるのはヒスタミン、アセチルコリン、メサコリンなどの気管支収縮物質です。これらの薬剤は、高濃度のものを吸入するとほとんどの人が気管支が収縮して呼吸困難が生じます。しかし、気道過敏性のある人では、普通の人では反応しないような低い濃度の薬剤の吸入で気管支が収縮し、発作が誘発されてしまいます。この気管支の収縮の程度はPFや1秒間に吐き出すことができる量(1秒量)を測定することで客観的に判定することができます。通常は、少しずつ濃度が高い薬剤を吸入させて1秒量を測定し、薬剤の吸入前の1秒量の値より20%以上1秒量が低下した時に、気管支の収縮(発作)が起こったと判定し、その時の薬剤濃度を閾値と呼びます。この閾値が健常者に比し明らかに低い時、起動過敏性陽性と診断します。気管支喘息の患者さんでは、全てこの気道過敏性が証明されます。しかし、気道過敏性を持っている人の全部が気管支喘息というわけではありません。気道過敏性を有している人に、何かが引き金になって喘息が発症すると考えられています。

 多くの気管支喘息の患者さんにはアトピーと呼ばれるアレルギー体質が認められます。特に、子供ではその頻度が高い傾向があります。従って、アレルギー素因を検査することは喘息に診断に役に立つことがあります。最近は、血液をとるだけで多くのアレルギーを検査することができます。ダニ、家のホコリ(ハウスダスト)をはじめ多くのアレルギーが認められることがあり、診断に有用です。

どんな治療法

 気管支喘息の治療は、この5〜10年間に革命的に変化したといっても過言ではありません。それを一言で言えば、ステロイド薬の吸入が治療の中心になったということです。

 気管支喘息は、残念ながら現時点ではいまだ完全に治癒させることができない病気です。従って、ある意味では治療は一生続けなければならず、また、なかなかコントロールが難しい例があるのも確かです。そのため、喘息の治療に関しては、これまで非医学的な民間療法をはじめ、科学的には証明されていない医師の経験にもとづく治療が行われていたという経緯があります。

 そこで、最近、喘息の標準的治療法を確立する目的で、全世界的にガイドラインが作成されました。わが国でも、アレルギー学会が中心になってガイドラインが発表されています。今後、気管支喘息の治療は、このガイドラインに沿って行われるべきでしょう。

①気管支拡張薬
 気管支喘息の発作は気管支が収縮して細くなることによって起こります。ですから、この苦しい状態を改善させるためには、気管支拡張薬が有効なことになります。
 これには、吸入、経口、静脈内投与の3種類がありますが、最も一般的に用いられるのは吸入法です。ハンドネブライザーを用いて、1〜2回吸入します。この方法は、細くなった気管支に直接薬剤が届きますから、即効性があり非常に有効です。この吸入に使われる薬剤は、交感神経刺激薬と呼ばれるものです。交感神経は気管支を拡張する作用が非常に強く、従って、吸入すると10分程度で気管支が拡がって呼吸困難が改善します。しかし、交感神経は同時に心臓に対しても作用しますから、使いすぎると心臓に大きな負担をかけることになります。ですから、使用は原則的に発作時にのみ限り、あまり安易に使用しないように注意が必要です。この吸入薬の使いすぎが致死的結果を招く危険性も指摘されています。しかし、実際に発作が起こって苦しい時には、非常に有効ですから、外出時などには常に携帯し、イザという時に備えておく必要があります。
 経口や静脈内投与に用いる気管支拡張薬としてテオフィリン製剤があります。以前は、喘息治療の中心として用いられたこともありましたが、現在では、ステロイド薬や交感神経刺激薬の補助的な役割と考えてよいでしょう。経口薬としては、長時間作用型の薬剤があり、経口投与が可能で使い易いためよく用いられます。しかし、気管支拡張効果は交感神経刺激薬よりも弱く、強い発作ではあまり効果がありません。強い発作の時には、静脈内投与(通常は点滴)で、ステロイド薬と併用して用いられます。この薬剤は治療域が狭く、過量になると、種々の循環系の副作用が出てきますから、血中濃度を測定しながら慎重に投与する必要があります。

②ステロイド薬
 ステロイド薬が喘息発作の特効薬であることは以前から知られていました。発作が重症で持続する時(重積発作)には経口あるいは点滴で用いられ、重積発作時には第一選択の治療になります。
 しかし、ステロイド薬には多くの副作用があるために、発作がない時には長期的に使うことができませんでした。近年、このステロイド薬に吸入用のステロイド(ベクロメサゾン)が開発され、しかも、全身投与に比較してほとんど副作用がないことが分かりました。前述したように、気管支喘息の本態である気道過敏性をもたらすものが気道の慢性炎症であることが分かってきました。ステロイド薬は、最も強力な抗炎症薬であり、かつ、吸入で使えば副作用も少ないため、喘息のコントロールには最も適した薬ということになります。事実、多くの研究で、定期的にステロイド薬を吸入することで、発作が減少し、時には気道過敏性そのものが改善することが示されています。従って、現在の喘息治療は、吸入ステロイド薬の定期的使用が中心となっており、ガイドラインにおいても、軽症で時々しか発作を起こさない軽症間欠型を除くすべての喘息患者に吸入ステロイドを用いることが薦められています。
 ステロイド薬の吸入も交感神経刺激薬と同様にMDIというハンドネブライザーを用いますが、上手に吸入しないと、ほとんどが喉の部分に付着して気管支に到達しない場合があります。そこで、スペーサーと呼ばれる器具を用いて吸入すると効果的に吸入することができます。ベクロメサゾンの場合は、1日4回の吸入が原則ですが、最近開発されたフルチカゾンは、1日2回の吸入でよく、また、スペーサーも必要ないため、広く使われるようになりつつあります。

③抗アレルギー薬
 気管支喘息のうちアレルギーが関与するタイプがアトピー型ですが、その原因のアレルギーを抑える薬剤もよく用いられます。多くは、経口薬ですが、DSCG(インタール)という薬剤だけは吸入で用いられます。この薬は特に小児科領域では、喘息治療の第一選択と考えられています。しかし、成人では、その有用性が低く、ガイドラインでも重視されていません。他の抗アレルギー薬はすべて経口薬ですが、その結果、有用性は、あくまでも2次的なものであって、他の治療法の補完的な治療と考えるべきでしょう。

ガイドラインに基づく治療

 ガイドラインでは、まず患者さん自身が症状の程度を客観的に評価することを薦めています。つまり、PFの自己測定です。PFが気管支の収縮の程度(発作の程度)を正確に反映することは前述しました。そして、このPFの値からガイドラインに示す治療法を選択するわけです。現在ではPFの測定機器が市販されており、測定も簡単に行うことができます。喘息は残念ながら今のところ治癒させることはできません。しかし、発作さえコントロールできれば、日常生活には何ら支障なく、スポーツでさえも普通に行うことができます。そのためには、まず病気をよく理解し、科学的根拠に基づいた治療を行わなければなりません。

どんな予防法

 もし、アレルギー性素因がはっきりしていてアトピー型の気管支喘息と診断されているなら、その抗原とできるだけ接触しないようにすることが必要です。特に、ダニ、ハウスダストなどは、ほとんどのアトピー型に認められますから、室内の掃除を徹底させ、常に清潔に保っておく必要があります。喫煙はあらゆる呼吸器疾患に悪い影響を与えますから、控えなくてはなりません。禁煙は最も重要な予防策です。

 喘息発作は、しばしば感冒(ビールス感染)が引き金になって起こってきます。また、発作の程度も感冒時には悪化することがあります。従って、できるだけ風邪をひかないように、また、ひいてしまった時には、悪化しないように早急に治療を受けるようにした方がよいでしょう。しかし、ここで注意が必要なのは、喘息患者さんの一部には、アスピリンをはじめとして多くの鎮痛解熱薬を服用すると喘息が悪化する人たちがいることです。これらはアスピリン喘息と呼ばれますが、しばしば重症化し、時に致命的になることがありますから、あまり安易に風邪薬を服用してはいけません。主治医と相談するのがよいでしょう。

主な治療薬

①気管支拡張薬

A:交感神経刺激薬(サルタノール、メプチン、ベロテック、ベネトリン、ストメリン、アロテック)
 いずれも吸入で発作が起こったときに使います。MDI(ハンドネブライザー)で1回に1-2吸入します。1回使用したら最低1時間は間をおいた方が安全です。最近のこの系統の薬剤は、循環系への副作用を少なくし、より気管支への拡張効果を増強したβ刺激薬が用いられます。もし、これでも呼吸困難が改善しない時は医療機関を受診してください。以前は、発作がなくとも、1日に3-4回定期的に吸入することが推薦されましたが、いまでは、基本的に発作が起こったときにのみ使用する屯用使用が原則です。

B:テオフィリン薬(テオドール、テオロング、スロービット、ネオフィリン)
 通常は経口で、1日400〜800mgを2回に分けて投与します。ネオフィリンは注射薬で、発作時に点滴で125-250mgを使用するのが一般的です。いずれも過量になると副作用が出やすいため注意が必要です。

C:抗コリン薬(アトロベント、テルシガン)
 これもMDIで用いますが、気管支拡張効果は交感神経刺激薬より劣ります。

②吸入ステロイド薬(ベコタイド、アルデシン、フルタイド)
 いずれも吸入で用いますが、ベコタイドとアルデシンは、気体ですからスペーサーを使用して、1日4回吸入するのが普通です。フルタイドは、粉末ですからそのまま吸入が可能で、1日2回の吸入ですみます。いずれも、吸入後は、うがいをする必要があります。

③抗アレルギー薬(インタール、オノン、ザジデン、アレギサール、リザベン)
 インタールだけが吸入で用い、他は経口薬です。インタールは、気体と粉末の両方があり、ステロイドと同様に1日2-4回定期的に吸入します。他は、1日2〜3回経口で服用します。

④その他の薬剤
 喘息は気道の慢性炎症がその原因ですから、炎症をくり返す結果、多量の痰が出現してきます。この痰の喀出がうまくいかないと気管支はさらに狭くなって呼吸困難が悪くなりますから、痰を切れ易くする薬剤を用いることがあります。この系統の薬剤にムコダインやムコソルバンがあり、1日3回経口で投与します。 感冒が悪化して最近の感染が疑われる時には、適宜、抗生物質を投与します。セファロスポリン系、マクロライド系、ニューキノロン系抗生物質がよく用いられます。 喘息発作が重症の時、つまり、気管支拡張薬が無効な時は、ステロイドの全身投与が行われます。経口薬には、プレドニン、メドロール、リンデロン、点滴用には、水溶性ハイドロコートン、サクシゾン、ソルコーテフなどが用いられます。

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