80~90%の夫婦は、避妊しなければ2年以内に妊娠します。しかし、避妊しないで正常な夫婦生活があるにもかかわらず、2年間で妊娠しないでお子様がいないものを原発性不妊といいます(アメリカでは1年間としている)。また、少なくとも1人以上お子様がいて、子どもを欲しいと思ったときから2年間で妊娠しないものを続発性不妊といいます。
不妊の原因は男性にも女性にもあり、以前は女性不妊と男性不妊の比率が3:1とされていましたが、体外受精が可能となった現在では1:1と考えられています。
男性不妊症は、精子をつくる機能が障害されることによる乏精子症、精子無力症が主な原因です。また、勃起障害によって引き起こされることもあります。なお、精子がまったく存在しない無精子症は治療の対象外とされています。
女性不妊症は、妊娠に必要な臓器が障害されることによって起こり、卵巣機能の異常(無排卵、排卵回数が少ない、排卵後に卵巣からのホルモン分泌が不十分といった原因による)、卵管の異常(炎症によって卵管がつまったり、子宮内膜症のために管が癒着したりといった原因による)、子宮の異常(子宮の発育不全、子宮筋腫、子宮内膜の異常、腟の異常、頸管粘液の異常などの原因による)の3つに大別されます。また、なかには原因不明のものがあり、機能性不妊といわれています。
妊娠しないもの(不妊症)のほか、妊娠するけれど流産や早産してしまい生児をえられない(不育症)ものがあります。
女性不妊症の検査は、まず初診時の基礎体温(BBT)の測定から始まり、月経中・卵胞期・排卵期・黄体期に対応した検査(一次検査)で、原因(異常な状態)を見つけていきます。この段階で診断できない場合は、二次検査を行います。女性不妊症は、複数の原因が重なり合っていることが多いため、1つの原因だけを見つけて治療しても妊娠しないものです。ですから系統的な検査を行い、その原因をすべて探し出すことが大切です。
また、前述したように、なかには機能性不妊と呼ばれる原因不明の不妊もありますから、すべての検査が正常でも治療しなければ妊娠しない人もいます。
一方、子宮卵管造影法や子宮内膜組織診の検査は痛みを伴いますが、これらの検査後に妊娠する例が多いことから、子どもを希望する人はなるべく受けたいものです。
女性不妊症の治療は、検査で見つけた異常を正常に戻すことから始まります。卵胞が原母細胞から発育して、卵子を排出(排卵)するまでには約3か月、正確にいえば85日かかるといわれていることから、少なくとも3か月は同じ治療を続けることが望ましいでしょう。また、治療は、不妊原因の種類や部位、症状の程度によって、薬物療法・手術療法・生殖介助術(人工授精や体外受精など/assisted reproductive technology:ART)の3本柱が必要に応じて組み合わされます。
●下垂体性不妊(下垂体機能〈ホルモン〉の異常)
当院の過去のデータでは、潜在性も含む高プロラクチン血症は、不妊であると訴えて来院された患者さまの約3分の1の人に見られました。下垂体負荷試験とよばれる比較的簡単な検査で診断できるため、生理開始7日以内に検査を実施して診断された人には、ブロモクリプチン(アップノールB、パーロデルなどの薬物による)療法を行います。また、漢方薬の当帰芍薬散も下垂体の正常化に作用すると考えられています。
●卵巣性不妊(卵巣機能の異常)
頸管粘液検査で不良のものはエストロゲンが不足しているため、エストロゲン製剤の投与によりエストロゲンを補充します。また、基礎体温(BBT)の測定で黄体期が短く安定しない人に対しても黄体機能不全と見なし、黄体期のBBTの形を含む黄体期のホルモン環境を改善することを目的にホルモン療法を実施しています。
一方、無排卵性周期はホルモン検査が正常の人にもしばしば起こります。基礎体温の測定だけでは診断がつかないため、超音波断層法で診断し、必要に応じて排卵誘発剤で治療します。この治療法に対しては、さまざまな副作用もありますが、当院の場合は双胎や卵巣過剰刺激症候群の発生率は低く、流産率も低くなっています。
●卵管性不妊(卵管の異常)
卵管の再建術を行って自然妊娠する方法と体外受精・胚移植する方法の2種類に分かれます。体外受精・胚移植法は、排卵直前の卵胞より成熟した卵子を採取し、試験管またはシャーレー内で夫の精子と受精させ、卵割した初期胚を子宮内に戻す方法である。なお、閉塞の治療法には次の3つがあります。
①通水法:卵胞期に組織培養液などを外子宮口から注入し、その圧により卵管の疎通を図る。
②子宮鏡下卵管形成術:子宮鏡下に卵管口よりバルーンカテーテルを挿入し、閉塞している卵管部分をカテーテルによって押し拡げる。
③卵管形成術:卵管采部(卵管の先端で手のように広がっている部分)の閉塞には卵管開口術、峡部(卵管の細くなっている部分)や膨大部(卵管の入口の付け根の部分)の閉塞には卵管端々吻合術、峡部や間質部の閉塞には子宮内卵管移植術、卵管周囲の癒着には癒着剥離術が、それぞれ行われる。近年、マクロサージェリーの導入により卵管再建術の成功率が高くなり、それにともない妊娠率も30%前後に向上している。
●子宮性不妊(子宮の異常)
子宮の状態や症状によって薬物療法(ホルモン療法)、手術療法などが行われます。
①ホルモン療法:着床期不全内膜の治療には女性ホルモンの投与が行われる。また、子宮発育不全には、エストロゲン投与や性ステロイドの周期治療(Kaufmann療法)、偽妊娠療法などが行われ、子宮の発育を図る。
②手術療法:子宮筋腫には筋腫核出術、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫には子宮鏡(レゼクトスコープ)下での切除術、双角子宮などの奇形については子宮形成術(Strassmann手術、Jones手術)などが、それぞれ行われる。Asherman症候群(子宮腔癒着症)では、手術によって子宮腔を拡大し、癒着を剥離したあとにバルーンカテーテルやガーゼなどを挿入することにより再癒着を防止している。
●子宮頸管性不妊(免疫の異常)
頸管粘液の分泌が少ないと、精子の多くは子宮内に到達できないため妊娠しにくくなります。頸管粘液に対する精子の不適合が証明された人は、血中の抗精子抗体の測定を行ったうえで、エストロゲンや下垂体性ゴナドトロピンを投与します。また、ホルモン療法を行っても頸管粘液の分泌が増えない場合には、配偶者間人工授精により精子を子宮腔内に直接注入する方法もあります。
●腹膜性不妊(卵管の異常)
不妊症の女性を調べてみると、30~50%に子宮内膜症がみられたという報告があり、不妊との関係が指摘されています。子どもを希望する人で子宮内膜症を患う人は、この病気への治療も不妊症の改善につながりますので、早めに対処しましょう。
①ホルモン療法:子宮内膜症の薬物療法として、以前は性ステロイドによる偽妊娠療法が主流だったが、現在はダナゾールやGn-RHアナログ(ナサニール、スプレキュア、リュープリン)などの薬物による偽閉経療法が中心になっている。
②手術療法:上記の薬物療法で子宮内膜症が改善しないまま、病状が進行すると卵管が巻き込まれるような骨盤内の癒着を引き起こすことがある。このようなケースは不妊をまねく可能性があるため、腹腔鏡手術や開腹手術による病変部の除去や癒着剥離などが必要となる。
③生殖介助術:子宮内膜症が進行して卵管機能がダメージを受けた場合には、体外受精・胚移植法(IVF-ET)、GIFT法(排卵直前の卵子を採取し、この卵子と夫の精子を一緒に腹腔鏡を用いて卵管内に戻す方法)、ZIFT法(排卵直前の卵子を採取し、夫の精子と体外で受精させ、受精卵を腹腔鏡を用いて卵管内に戻す方法)などの生殖介助術が行われる。ただし、体外受精・胚移植法は両側の卵管がつまっていても施術できるのに対し、GIFT法やZIFT法では、どちらか一方の卵管が疎通している必要がある。
●男性不妊(造精機能の異常、精路通過の障害)
原因としてもっとも多い造精機能障害(精子をつくる機能が障害される)に対しては、さまざまな薬物療法が試みられています。また、造精機能障害のなかでも精索静脈瘤は手術療法が必要ですし、精路通過障害も手術療法が第一選択になります。
①薬物療法:造精機能障害による精子減少症には、まず循環改善剤、ビタミン剤、漢方薬などで精子を増やすことが試みられるが、それでも増加しないときにはGn-RHアナログ、ゴナドトロピン、アンドロゲンなどのホルモン療法が用いられる。
②手術療法:精索静脈瘤は高位結さつ術によって精巣上体の静脈を結び、血液の逆流を止めて造精機能の回復を図る。また、精路通過障害に対しては精路の詰まりを改善する再建術が施される。
③生殖介助術:薬物療法の対象にならない場合(無精子症や重症の精子減少症、精子無力症)では、人工授精や体外受精(GIFT法、ZIFT法、IVF-ET法)などが試みられる。精子濃度が1000万個/mlの精子減少症でも、顕微授精(卵子に直接、夫の精子を注入して受精させた後、受精卵を子宮に戻す)という方法で妊娠することが可能だ。無精子症など顕微授精の適応にならないケースには、夫以外の精子を子宮腔に注入する非配偶者間人工授精も一部の施設で行われている。
●機能性不妊(原因不明)
さまざまな検査を行っても不妊原因が見つからないものをいいますが、妊娠する能力があるのに妊娠できない場合と不妊の原因を発見できなくて妊娠できない場合があります。しかし、これらの区別はつけにくいため、まず基礎体温表や超音波検査で排卵日を推定しセックスのタイミングを図る治療を行います。1年ほど経過しても妊娠しないときはホルモン療法などの薬物療法を行います。それも効果がない場合には、体外受精-胚移植の適応になります。
結婚後、時間が経過すればするほど不妊因子が増えることから、子どもを希望する人はなるべく早く妊娠を目指したほうがよいでしょう。生理不順などの症状がある人は、一度婦人科の受診をした方がよいと思いますが、はっきりした予防はありません。
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