【病気の知識】

尿失禁

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監修:光畑直喜/呉共済病院泌尿器科部長

どんな病気

 尿失禁とは、尿をしようという意志がないままに「尿がもれてしまう」ことです。この尿失禁は種々のタイプがあり、分類法もさまざまですが、次のように6大別してみます。

①腹圧性尿失禁
 くしゃみ、せき、笑い、階段の昇降、重い物を持つ、急いで走るなどの、腹部に圧力が加わった場合に尿がもれるものです。その大多数は出産を経験した経産婦に起こります。これは出産により骨盤底筋群が弛緩し(ゆるみ)、膀胱頚部(膀胱の下部)が下垂したために生じます。他の原因として、内因性尿道括約筋不全という尿道括約筋自体の機能障害による腹圧性尿失禁も少数にあり、男女を問わず起きます。腹圧性尿失禁は治療できる病気であるという認識が不十分であり、恥ずかしさも加わって泌尿器科医を受診しない潜在患者は数多いと言われています。放置すると尿もれの頻度や量が増加し、手術的治療法以外に治療法がなくなります。またこの病気は頻尿や後述する切迫性尿失禁を伴うことが多いのも特徴です。

②切迫性尿失禁
 尿意を感じて、トイレで排尿するまでの間に尿がもれてしまうものです。この病気の場合、「オシッコがトイレまでもたない」という表現が聞かれます。高度の膀胱炎、前立腺肥大症、前立腺炎、排尿筋反射亢進型の神経因性膀胱で生じる他に、明らかな膀胱の神経異常がなく膀胱の無抑制収縮が認められる不安定膀胱にも生じます。

③反射性尿失禁
 脊髄損傷後などにみられるもので、随意に排尿するという意識下では排尿は全くなく、意志とは無関係に(不随意に)反射性の膀胱収縮により尿がもれるものです。これは損傷された脊髄部より上位(大脳側)の中枢からの排尿反射が遮断されて生じるものです。

④溢流性尿失禁(奇異性尿失禁)
 高度の前立腺肥大症、排尿筋反射消失型の神経因性膀胱の末期状態にみられる(これらの病気の不完全な治療や放置した際に生じる)もので、尿をしようとする意志では排尿は全くなく、「たれ流し」の状態を言います。正常人の膀胱容量は約350~500ccで、かなり我慢をしても1000cc以上になることは滅多にないですが、長い年月を経て徐々に排尿困難が進行した場合は、その多くは膀胱容量が2000~3000cc、あるいはそれ以上となります。この際、膀胱に尿が2000cc~3000cc貯留した場合でも苦痛のないのが一般的です。腎機能は極度に低下し(腎不全)、尿毒症となります。

⑤全尿失禁
 女性の場合は難産、男性の場合は前立腺の内視鏡的手術で尿道括約筋が損傷された場合に起こります。尿は膀胱内に全く残らず、すべての尿が意志のないままに排尿されている状態です。

⑥尿道外尿失禁
 膀胱外反症、尿道上裂、尿管異所開口などの先天性疾患、婦人科手術後の膀胱腟ろうなどに生じるもので、持続的に尿がもれているものです。膀胱腟ろうとは、膀胱と腟の間に交通ができてしまい、腟から尿がもれるものです。

どんな診断・検査

①腹圧性尿失禁
 問診のみで診断できることが多いです。排尿日記(1日の排尿の回数、その都度の尿量などを数日分書いて頂く)で更によくわかります。尿失禁の頻度、失禁尿量が多い場合は、膀胱造影(膀胱に造影剤を注入し、X線撮影を行うことにより膀胱の位置、形状をみる)も行われます。

②切迫性尿失禁
 尿検査で感染尿(膀胱炎)の有無が調べられ、男性の場合は前立腺炎、前立腺肥大症の有無を知るために直腸を通しての前立腺指診(前立腺の大きさ、硬さ、対称性、硬結、圧痛の有無などをみる)が行われます。また神経因性膀胱が疑われる場合は、膀胱造影、膀胱内圧測定、尿道内圧測定、外尿道括約筋電図、尿流量検査などが行われます。

③反射性尿失禁
 尿検査で感染症の有無が調べられる他、膀胱造影、膀胱内圧測定、尿道内圧測定、外尿道括約筋電図、尿流量検査などが必要に応じて行われます。

④溢流性尿失禁(奇異性尿失禁)
 尿検査、直腸を通しての前立腺指診、血液検査による腎機能、血清電解質の状態、両側腎と膀胱の超音波検査などが行われます。

⑤全尿失禁
 膀胱内は絶えず尿の無い空虚の状態であることから、尿道カテーテル(尿道を通して膀胱へ挿入するチューブ)で膀胱内に尿の無いことを確認(あるいは超音波検査で)します。

⑥尿道外尿失禁
 先天性奇形による場合は、疾患に応じた種々の検査が行われ、婦人科手術後の膀胱腟ろうの場合は、膀胱造影で膀胱に注入された造影剤が腟のどの部分に流れるかを調べます。

どんな治療

①腹圧性尿失禁

●骨盤底筋訓練
 骨盤底筋群(尿道、腟、肛門のまわりの筋肉)の運動で、腟と肛門の収縮(3秒~10秒)と弛緩(ゆるめること)を1日に10回~20回毎日繰り返し行うことです。腟の収縮は入浴中に行うとより効果的です。

●薬物療法
 主として塩酸クレンプテロール(製品名はスピロペント)が使用され、三環系抗うつ剤(製品名はトリプタノール)が使用されることもあります。

●手術療法
 骨盤底筋訓練、薬物療法で効果が得られない場合、あるいは放置するままに進行して失禁量が極めて多く、両治療法での改善がみられないと判断した場合に手術的療法が行われます。手術法はいくつかありますが、いずれも人工的に尿道を狭くすることにより尿失禁を生じないようにするものです。換言すれば、尿を出にくくする手術により、尿もれを防止することです。手術的に尿道をつり上げ、更に尿道を狭くする方法が主として行われていますが、尿道周囲にシリコン、コラーゲンなどを注入して尿道を狭める方法も行われています。手術は非常に効果がありますが、尿を出にくくする手術であるため、尿失禁は治っても排尿困難が多少共新たに生じるという難点はあります。やはり早期の治療が最良策となります。

②切迫性尿失禁
 前立腺肥大症、前立腺炎、高度の膀胱炎、排尿筋反射亢進型の神経因性膀胱による切迫性尿失禁はその原因となっている病気の治療法が行われます。それ以外の不安定膀胱(前述)による切迫性尿失禁に対しては、以下の治療法が行われています。

●膀胱訓練
 日中に水分を多量摂取し、我慢できるまで排尿を我慢し、排尿の際は尿を途中で止めるという訓練法です。

●薬物療法
 主として抗コリン剤(製品名はバップフォー、ポラキスなど)が使用されます。しかし抗コリン剤は口渇と排尿困難という副作用を生じやすいため、抗コリン剤を使用できない場合は三環系抗うつ剤(製品名はトリプタノール)が使用されます。

③反射性尿失禁
 原因となる脊髄損傷への対応が主となります。

④溢流性尿失禁(奇異性尿失禁)
 尿道留置カテーテル法と腎不全(腎機能の低下)への対応が主となります。尿道留置カテーテル法とは、尿道を通してチューブを膀胱まで挿入し、チューブが安易に抜けないように固定して、膀胱内の尿を絶えず尿道外へ出してしまうことです。腎不全への対応は、尿道留置カテーテル法のみでもある程度の効果がありますが、すでに高度の腎不全に陥っている場合は、人工透析あるいは腹膜透析(設備はほとんど不要で、腹膜を利用して、原理的に人工透析と同じような効果が得られる)が行われます。

⑤全尿失禁
 一般的には経過を観察しながら自然治癒を待ちます。尿道括約筋の損傷程度により、治癒までの期間は個人差はありますが、数ヶ月から1~2年で自然治癒することが多いです。

⑥尿道外尿失禁
 先天性奇形による尿失禁に対しては、その原因となる疾患の手術的療法が行われます。また婦人科手術後の膀胱腟ろうに対しては手術的療法が唯一の治療法です。

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