監修:光畑直喜/呉共済病院泌尿器科部長
尿道炎は一般に男性の病気です。解剖学的に、女性の尿道は男性の約1/6~1/7の長さで、加えて女性の尿道内腔(尿道の中の広さ)は男性に比べて大きいという特徴があります。このため、女性は外尿道口(尿の出口)から進入した細菌は容易に膀胱に達し、膀胱炎を生じ易いということになります。逆に女性は尿道に原因となる病気などがない限り尿道炎を起こすことはありません。
ただし、性感染症(淋病、クラミジア)の場合は、解剖学的な男女の相違から、女性は子宮に感染します。
性感染症(STD)とは、約20年前まで用いられた性病<淋病、梅毒、軟性下疳(なんせいげかん)、ソ径リンパ肉芽腫の4疾患>を含めて、性交のみに限らず性行為に類似した行為によっても感染する病気を総称した言葉です。4疾患の性病に加えて、HIV、A・B・C型肝炎(またはいつ肝炎を発症してもおかしくないキャリア)、性器ヘルペス、尖圭コンジローマその他数多くの病気の総称です。
淋菌性尿道炎、クラミジア性尿道炎、マイコプラズマ性尿道炎なども性感染症です。尿道炎は淋菌性尿道炎、クラミジア性尿道炎、その他の尿道炎に3大別します。中でもその大半を占める淋菌性尿道炎とクラミジア性尿道炎を中心に説明します。
●淋菌性尿道炎
淋菌感染による尿道炎で、俗に淋病と言われているものです。約20年前までは、性病の時代も性感染症となってからもトップの座にありましたが、クラミジア性尿道炎の台頭で2番目となっています。感染ルートは、約20年前までは風俗店などが圧倒的に多く、その大半を占めていましたが次第に減少し、若年層の性モラルの低下を反映して、不特定多数との性交渉などによる一般化が進んでいます。症状は男性の場合で高度であり、医療機関への受診率が高いため減少しつつも、感染を受けた女性は無症状のことが多いため、近年は横ばい状態です。
●クラミジア性尿道炎
約20年前より尿道炎では最も多い病気です。現在は淋菌性尿道炎の約5~7倍の頻度にみられます。クラミジア・トラコマティスと称される、リケッチアやウィルスに類似した寄生体の感染による尿道炎です。感染ルートは淋菌性尿道炎とほぼ同様です。症状は比較的軽微であることが多いため、医療機関への受診率は低く、放置した上での配偶者やガールフレンドなどとの性交、性風俗店でのオーラルセックスなどにより大きく広がっています。女性のクラミジア感染症は、無症状のままに妊娠時の検査によりわかることが多く、妊婦の約30%にみられると言われます。治療薬による胎児への影響、出産の際の胎児への産道感染の問題から、社会的に問題となっているのが現状です。
●その他の尿道
マイコプラズマ、カンジダ、トリコモナスなどによる尿道炎があり、性感染症として配偶者、ガールフレンド他への感染があります。性感染症とは無関係な、一般細菌による尿道炎も時に生じます。
●淋菌性尿道炎
尿の出口(外尿道口)からのウミ(排膿)は黄色、濃厚で多量です。尿をし始めの痛み(初発時排尿痛)、亀頭部の発赤、両側の股間にあるリンパ腺(両側外ソ径リンパ節)の痛みのある腫れ(有痛性腫脹)などを主症状とします。パートナーが感染を受けた場合は、男性のみが正しい治療を受けても、感染されたパートナーからの再感染が生じます。他に行きずりの女性との性交の場合、すでに感染された女性であればさらに多くの男性の感染源であるにとどまらず、その女性自らも無症状のことが多く(あっても腟分泌物=オリモノが増加する程度)、淋菌による炎症は子宮から卵管、卵巣へと広がって不妊となり、淋菌性卵巣炎が破れて骨盤腹膜炎を生じる危険性もあります。
●クラミジア性尿道炎
一般に尿道のかゆみ(むずむずした感じ)、軽度の初発時排尿痛、排尿時違和感などを主症状とします。外尿道口からの排膿はないか、あっても少量で、水様のウミが出る程度です。外尿道口部の発赤は軽度で、亀頭の発赤はあっても軽度です。外ソ径リンパ節の腫脹は著明なことは少ないです。無症状の場合も時に見られます。淋菌性尿道炎と比較すると、一般に自覚症状は軽度で、そのため医療機関への受診率が低く、大きく広まった要因となっています。ただし、自覚症状が軽微であるから病気自体も軽いのではなく、放置した場合や適切な治療を受けない場合は、クラミジアは精液の通路を逆行して(逆行性感染)、クラミジア性前立腺炎、クラミジア性精巣上体炎を生じることが多々あります。淋菌性尿道炎と同様の恐ろしい病気です。また女性が感染を受けた場合は、淋菌性尿道炎で述べたことと同じ経過をたどります。
●その他の尿道炎
マイコプラズマによる尿道炎の症状はクラミジア性尿道炎と類似し、トリコモナス、カンジダによる尿道炎は時にかゆみを生じる程度で大多数は無症状です。一般細菌による尿道炎の場合は、クラミジア性尿道炎様の軽度の自覚症状から淋病性尿道炎様の高度の自覚症状に至るものまで様々です。
●淋菌性尿道炎
尿検査では、尿沈渣(尿を遠心分離機にかけて下に沈殿したもの)は顕微鏡的に白血球(膿球)が多数です。外尿道口から出ている膿を染色(単染色またはグラム染色)して淋菌の有無を顕微鏡的に調べるのが一般的です。わかりにくい場合は、時に淋菌の培養その他の検査も行われることがあります。
●クラミジア性尿道炎
クラミジアは前述したように、リケッチアやウィルスに類似した細胞内寄生体であるため、光学顕微鏡(一般の顕微鏡)での検出は不可能です。一般的に外尿道口から細い綿棒を回転させながら入れ、綿棒に付着した上皮細胞から特殊検査でクラミジア・トラコマティス抗原の有無を調べます。受診(泌尿器科医)の約2時間前以降は排尿をしないことが重要で、より高い正確度が得られます(約100%)。尿のみでクラミジア・トラコマティス抗原の陽・陰性のわかる検査施設もありますが、検査施設(大病院なら中央検査室、それ以外は民間の検査施設へ外注)により精度が異なり、医療機関の検査法は両者のいずれかです。血液検査によるクラミジア・トラコマティス抗体検査は、以前にクラミジア性尿道炎に感染し、正しい治療ですでに治っている人にも抗体が陽性に出ることから、診断的価値は乏しいと言えます。
●その他の尿道炎
マイコプラズマ性尿道炎では血液検査によるマイコプラズマ抗体検査、トリコモナス性尿道炎、カンジダ性尿道炎では尿沈渣の顕微鏡的検査によるトリコモナス、カンジダの検出で診断され、尿中に検出されなければ尿培養で調べます。
●淋菌性尿道炎
以前はペニシリン系が第一選択剤でしたが、世界的にペニシリナーゼ産生菌という、ペニシリンに耐性を示す(ペニシリンに効果のない)淋菌が増加しています。以降ペニシリナーゼ産生菌に対する効果的なペニシリン系薬剤の他、セフェム系、ニューキノロン系、アミノグリコシド系薬剤が主として治療薬として用いられています。
●クラミジア性尿道炎
主としてニューキノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系の三系剤が内服薬として用いられています。ニューキノロン系では製品名クラビット、タリビッド、オゼックス、トスキサシン、スパラ、マクロライド系では製品名クラリス、クラリシッド、テトラサイクリン系では製品名ミノマイシン、ビブラマイシンなどがあります。ニューキノロン系薬剤濫用傾向からニューキノロン系薬剤に耐性を示すものが増加しつつあります。テトラサイクリン系薬剤は効果がやや弱いという短所があり、マクロライド系薬剤耐性のクラミジアも近年漸増しつつあるという難点があります。
●その他の尿道炎
マイコプラズマ性尿道炎にはマクロライド系内服剤のすべての薬剤が有効です。トリコモナス性尿道炎にはメトロニダゾール内服薬とチンダゾール内服薬が有効です。カンジダ性尿道炎には主としてナイスタチオン薬の内服が行われています。一般細菌性尿道炎に対しては主としてニューキノロン系内服剤が主として用いられます。
「君子危うきに近寄らず」が最大予防法ですが、まずはコンドームを使用すべきです。
最後に、性病科を標榜する医療機関の一部で保険を利かさず法外な診療費を請求するところがあります。保険が利かないと言われた時点で、あるいは電話で受診前に尋ねるか、泌尿器科医を受診してください。
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